体脂肪計で知られるタニタの博物館を訪問

  ー ヘルスメーターで「健康をはかる」を進化させたタニタの軌跡 ー

タニタ博物館外観

 東京丸ノ内のビル地下街に「タニタ食堂」というレストランがあり立ち寄ってみた。テレビなどでもよく紹介されるそうである。これが体脂肪計メーカー大手のタニタの経営であることをはじめて知った。今回、これをきっかけにタニタ社の「タニタ博物館」を訪問することにした。博物館は東京・板橋のタニタ本社の中にあり、起業の歴史と歴代の開発製品を紹介展示している。

博物館の展示コーナー

展示は、体重計、料理はかり、タイマー、歩数計、体組成計(体脂肪計)を含め各種の家庭用計測機器類と幅広い。当初は社員の研修用施設として開設されたもののようだが、「健康」をテーマとする企業として広く知ってもらうため一般に開放するようになったという。小さな博物施設ではあるが、計測器を軸として発展してきたタニタ社が、戦後、金属加工のメーカーから出発し、体重計の製造、多様な体脂肪計の開発、最近では健康食品の提供などで大きく成長していく姿がみてとれる。 以下は、博物館の展示内容、タニタ社の歴史と製品、過去・現在の事業内容などを記したもの。

○ タニタ博物館(タニタ本社内施設)
   東京都板橋区1-14-2 開館は毎週水曜日・要事前予約
   https://www.tanita.co.jp/activities/museum/

♣ 博物施設の概要と展示

タニタの製品群

 タニタ社本社の正門入口に入ると受付コーナーがあり、スタッフが館内に案内してくれる。展示施設はそれほど広くないが、展示棚にはタニタが開発してきた製品がコンパクトにまとめられて陳列してある。創業当時の展示製品として、起業の基となったシガレットケース、宝飾品、金属製のキセル、ライターなどが並び、

    次に、料理用ハラリ、初期の体重計類(ヘルスメーター)が陳列されている。金属加工品製造から発展、家庭用計測機器に主力製品が移行していった様子がうかがえる。

体脂肪計・ヘルスメーターの展示

    しかし、あくまで展示のメインは、タニタの代名詞ともなっている多様な形態の体重計、体脂肪計、ヘルスメーター類である。初期のものから近年のデジタルヘルスメーター、多機能体組成計、医療用インナースキャンなど100点近くが展示されていて、より製品が精緻なものに発展していったことがよくわかる。また、最後のコーナーには、近年、タニタが「健康維持」、「食」と「農」などのサービス事業広報展示があり、この分野の拡大に力を注いでいることが感じられた。

♣ タニタ社の起業と発展

 タニタは創業から百年を迎え、現在、計量機器、健康計測機器メーカーとして1200名の従業員を持つ大企業に成長しているが、当初は個人商店であったことは既に触れた。この企業が戦後の高度成長期を経て体重計、体脂肪計で躍進し、現在の姿になっている。この成長の過程は博物館展示によく示されていて興味深い。この展示物を参照しつつ、成長過程をみてみることにする。

<タニタ創業の記録>

谷田五八
タニタ創業当時の写真(1943)

 企業タニタ最初の創業は100年前の1923年、谷田賀良倶が貴金属宝飾品などの製造販売の個人商店を開業したのが始まりとなっている。その後、1944年に二代目の谷田五八士が谷田無線電機製作所を設立、通信機部品のほか、シガレットケースやキセル、はかり、調理器具など生産を手がけ第二の創業を果たしている。この製作品の中に家庭用の体重計(ヘルスメーター)があり、これが発展の基礎となった。また、このとき企業名も「タニタ製作所」に変更している。

 それまで体重計は業務用や銭湯向けの大型に限られ家庭にはみられなかった。しかし、昭和40年代以降、住宅団地などで家庭用風呂が普及する中で、手軽な家庭用体重計への需要が高まり、これに着目したタニタは急成長のきっかけをつかむ。このヘルスメーターは1980年代末までに1000万台を数えるヒット商品となった。博物館には、この時代に生み出された製品が数多く展示されおり、創業から発展へ向かった道筋が示されている。
 展示棚には、初期の金属製品のほか、料理用計量器、ベビースケール、温湿度計、時代ごとの多彩な体重計が並べられ展示されていた。

<体重計の開発と事業の飛躍>

1960年痔のタニタの体重計

 次のタニタ飛躍の糧は、業態を「健康をはかる事業」と定め、集中的に研究開発を推進したことにあるといわれる。 当時日本の時代背景をみると、高度成長の中で徐々に社会生活が安定、食生活も豊かになり、ダイエットや健康維持への関心が高まりつつあった。こういった中、体質管理や体重計測の重要性が医療専門家などから多く指摘される。こういったことから手軽に入手できる体重計が社会的にも求められてきた。当時、体重計は業務用で銭湯や医療機関、集会場などに装備されているものが多く、価格も高額だった。この時代の流れをつかんだタニタは、家庭用の体重計(ヘルスメーター)を市場に投入することを決断する。しかし、当初、開発には多くの困難が伴ったようだ。はじめの売れ行きは期待したほどではなかったが、社会的期待は大きかった。タニタは、この将来性を求めて機能、デザインの工夫、コスト削減による価格化を進めた結果次第に知名度をあげることに成功する。この体重計投入によりタニタは成長の基礎を築いていったことになる。

<体重計から耽脂肪計、ヘルスメーターへの躍進>

世界初の体脂肪計付ヘルスメーター(家庭用)
体組成計の内部構造

 ビジネスの基礎を築いたタニタは、体重計をヘルスメーター名付け、この開発・改良をさらに続けると共に、時代を先取りした「体」(の中身をみる体脂肪計」の開発を試みる。これが「乗るだけで計測できる体脂肪計」と世界初となる「家庭用体脂肪計付ヘルスメーター」であった。この開発に先立って、タニタは「体重科学研究所・ベストウェイトセンター」を開設して準備してきたことも忘れてはならないだろう。この研究開発は、素足肌接触による微弱電流を数値化、体重と身長のデータから体脂肪率を算出するBIA(Bioelectrical Impedance Analysis、生体電気インピーダンス法)と呼ばれる方法の確立であった。ただ、開発当初の体脂肪計は医療用、業務用に限られ、価格は50万円近くもする高額製品という制約があった。

二万円台の脂肪計付きヘルスメーター(1995)

 そこで、さらに研究開発投資を進めたタニタは、1992年に広い普及を目指してコンパクトな前記の家庭用ヘルスメーターを完成させる。価格は4万円台、さらに1995年に2万円に値下げさせた普及版が大ヒット商品となった。そして1997年にヘルスメーターの売り上げで世界一を達成するまでの成果を上げている。これにより「体脂肪計」(体脂肪計付きのヘルスメーター)はタニタの代名詞ともなるヒット商品となった。

    これ以降も、タニタは数々のヘルスメーターの応用製品を生み出しておいる。ダイエットモード体脂肪計、家庭用体組成計「インナースキャン」、携帯型デジタル尿糖計など多様な健康計測機器の発売である。これらによりタニタによる汎用の体脂肪計は一般家庭に広く安価に提供していく。  この体重計から派生した体脂肪計、インナースキャンへの展開は、今や一般家庭に広く 普及する商品となっている。博物館では、開発当初の体脂肪計から最近のインナースキャンに至る多様な健康計測機器の発展をつぶさに見ることができる。

<体重計から健康サービス企業への転身>

東京・丸ノ内の{タニタ食堂

 タニタのヘルスメーター製品は好調を続けているが、2000年代に入り、同社は「健康に貢献する」企業として新たな展開をはじめた。これに先立って、1992年に本社内に「健康促進」をテーマに社員食堂を開設した。これが“美味しい健康食” 「おいしくお腹いっぱい食べていたら、知らないうちにやせていた」をコンセプトに運営する食堂スタイルと評判になり、テレビでも取り上げられた。また、『タニタの社員食堂』として出版されベストセラーになる。これをきっかけに、タニタはレストラン事業を開始、書籍のレシピを基にしたメニューを提供した「丸の内タニタ食堂」を東京・丸の内にオープンするまでになる。これが店舗当たり年間7200万円の売上をあげるモデルとなり、関西や地方都市、各地の病院にもレストランが広げられた。タニタがビジネスモデルを「製品を売る」から「健康を食で実践する企業」へ業域を広げたことを示すものだった。
 タニタの主軸はあくまで健康計測機器の生産・販売であるが、「健康」をテーマにした新たな事業展開として注目できるだろう。ちなみに、タニタの『社員食堂』を起点とするビジネス展開」は、2012年には「第4回日本マーケティング大賞」を受賞している

♣ 訪問後の乾燥

 我が家にも浴室にタニタのヘルスメーター・体脂肪計があるが、いったいどうして体脂肪が測れるのかと不思議の思っていたのだが、タニタ博物館の解説者の説明でようやく納得できた。同時に、企業タニタがどのようにして小さな金属加工の個人会社から健康計測機器のメーカーに成長してきたか、

そして、マスコミに取り上げられた「タニタ食堂」のようなビジネスをどのような契機で展開してきたかが理解できた気がした。 タニタの前社長谷田大輔氏によれば、「1980年代、会社が赤字で苦しんでいたとき、「健康」というキーワードで「ヘルスメーター」事業に目標を絞り、世界一(オンリーワン)なろうと決意、会社を「体重計の会社」から、「体重を〝はかる“」「健康」そのもののビジネスしようと研究開発組織「ベストウェイトセンター」を設立。「(健康を害する)肥満というのは『体重』ではなく『脂肪』の量が問題」との深い理解が成長ビジネスに結びついた。」と語っている。『タニタはこうして世界一になった』(講談社)より 今度の見学で、体質管理におけるヘルスメーターの大切さと、社会変化したがって社会的要請に柔軟に応えること、この方向で持てる技術を活用していく大切さを理解できた気がした。博物館が、こぅいった事業哲学のよき教材となっているように思えた。タニタが健康を軸としてさらなる成長を期待するところ。

タニタの製品群→

(了)

参考とした資料:

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