トヨタ産業技術記念館を訪ねる(2)「自動車館」

トヨタの自動車産業の沿革と技術開発の歴史をみる

Toyota A- Illust x18 先回、産業技術館の繊維館を紹介したが、今回は、それに続く「自動車Toyota A- overview x 04館」の訪問記録となっている。現在のトヨタは1930年代から繊維機械で蓄積した技術と資本を生かしながら20世紀の代表的産業である自動車生産を目指している。この歴史的取り組みと現代における自動車技術の姿を体系的に示したのが「自動車館」である。館では、特に、創業時の逸話とともに、自動車の構造、開発技術の推移、生産技術Toyota A- First stage x06の進化などを、代表的車種の展示、生産設備の動態展示を交えて紹介しており、トヨタの歴史と技術体系を知る上で貴重な施設であると思えた。また、この館は、日本の機械産業の技術発展の姿を総合的に示す最も充実し魅力ある企業博物館と位置づけられよう。

館内の展示は、大きく分けて国産自動車生産を志した頃の歴史コーナー「挑戦」、自動車「構成部品開発の進化とその変遷」コーナー、これまでの自動車関連技術の「開発体制」を紹介するコーナー、トToyota A- Model car x 12ヨタの「生産技術の進化と変遷」を示す動態展示のコーナー、「トヨタ生産システム」の解説などとなっており、訪問者の体験コーナーも用意されている。 また、このトヨタ産業技術館については、詳細なホームページ、VTRも多数言語で提供されているので訪問に先立って閲覧しておくことで、より深い科学館の内容が理解できるだろう。

トヨタ産業技術記念館自動車館 HP:http://www.tcmit.org/exhibition/car/


♣ トヨタの自動車事業創業の技術挑戦を示す展示

Toyota A- Illust x13 ここでは、記念館の展示内容を創業時の自動車産業の成り立ちを示す展示内容が紹介されている。明治期に豊田織機を創業・発展させた豊田佐吉の後を継いぎ会社の代表となった豊田喜一郎が織機製造から転身し、自動車生産を目指した頃の挑戦期の事業、技術開発の経過を示す展示となっている。ここで語られているのは「決意」「挑戦」「邁進」の三つのキーワードであった。

<国産自動車製作への挑戦>

Toyota A- First stage x01  まず、喜一郎は、1933年、トヨタ自動車(株)の前身となる「豊田織機社」の内部に「自動車部」を設置、自動車の試作に取り組むことを「決意」。そして、社内に自動車の部品材料となる「材料試験室」続いて「製鋼部」を設けている。ここでエンジン・ブロックの開発を進めるが、当時の日Toyota A- First stage x05本には強い強度に耐える本格的な鋳物技術は乏しく非常な困難をともなったという。この創業時に使われた「試験室」と古い工作機械類、シリンダー・ブロック鋳造の試行錯誤を示す立体像模型、最初に開発された「A型エンジン」などが展示されていて、当時の「挑戦」の姿が再現されていて感動させられる展示である。Toyota A- Model car x 04 これらの成果として生まれたのが「A型試作乗用車」(1935年完成)。このボディーの板金、組み付けの再現模型とともに当時の試作車がそこには展示されている。 そして、初の市場向け自動車「G1型」トラックが誕生する(1935年)。また、一般乗用車の開発も進み、1936年、自動車製造業事業法の認可を日産自動車とともに受け、社名も“トヨダ”から“トヨタ”に替わり、本格的な自動車産業に参入することが示される(1937年)。

<本格的自動車生産と市場化への道>

Toyota A- person x01 国産自動車製作への目途が立ったことから、喜一郎は本格的な自動車生産を開始した。しかし、それには市場化への課題は消費需要に耐えるコストと供給体制を整えToyota A- History x04る必要があった。トヨタは、これに応えるためトヨタ自動車工業設立とともに、自動車一貫生産のために「挙母工場」(1938年)を建設したことが紹介されている。この工場の設計のため「トヨタ生産方式」で有名なジャストインタイムの思想がすでに取り入れられていたという。コーナーには、工場の敷地図や生産体制の仕組みなども展示されている。 しかし、順調に進み出した自動車の生産もToyota A- First stage x04、太平洋戦争の開始と戦時体制、そして、戦争破壊と戦災によって中断をせまられ、本格的な自動車生産事業は戦後を待たなければならなかった。トヨタは、戦後、経営危機にも見舞Toyota A- Model car x 03われたものの、すぐに復興と再建に乗り出し、1947年には小型乗用車SA型、小型トラックSB型の生産に乗り出している。そして、1955年、初の本格的国産乗用車「トヨペットクラウン」が製作された。このクラウンの実車も記念館に展示されていて訪問者の目を引く。

♣ 自動車の仕組みと構造部品の展示

Toyota A- Illust x07 このコーナーでは、自動車を構成する各種部品、機能、走行システムを解Toyota A- Parts x01説するとともに、その技術開発の変遷を展示している。すなわち、エンジン、トランスミッション、ブレーキ、ステアリング、シャーシー、車体ボディーの仕組みなどが実物やカットモデルで示されており、それぞれがどのような機能を持ち、どのような技術開発がなされてきたかが示されている。 たとえばエンジンでは、トヨタの代表的なエンジン14基が並んで展示さToyota A- Parts x02れ、その変遷が一目でわかる。また、初代クラウンの3速マニュアルトランスミッションから、電子制御付きの最新オートマチックトランスミッションまで、7つが展示してある。自動車の駆動方式とサスペンションについては、初代クラウン、カローラとセルシオ、FFカムリ、4WDではランドクルーザーの実車を使って、その仕組みと技術開発の変遷を伝えている。

Toyota A- Parts x08Toyota A- Parts x07Toyota A- Parts x05

これらをみることで、トヨタ車の駆動と走行安定性の特徴、開発の方向性を確認できる内容である。ステアリングやブレーキシステムについても同様で、訪問者はパワーステアリングの仕組み、ABSの原理などについて実際に設置された装置を動かすことで知ることができる。 また、車体などについては、時代にマッチしたデToyota A- Parts x13ザインと嗜好性が求められてきたことから、これに応えて開発された初代クラウン(1955年)、初代カローラ(1966年)、1991年発売のカローラの3台のボデーを展示してある。 自動車の構造や機能、そこではどのような走行のシステムが自動車内に装備されているか、どのような技術の進展がこれまでなされてきたかが、この展示を通じてよく理解できる優れた展示だと思われた。

 

♣ トヨタの自動車技術開発の軌跡を示す展示

Toyota A- Illust x02 このコーナーでは、現在までのトヨタの自動車開発技術における足取りToyota A- Model car x 13と各時代の代表的なトヨタ車が展示されており、その材料開発、デザイン・設計技術、試験・評価技術などの幅広い技術開発分野の進展について過去と現在を比較していることに特徴がある。

まず、広いスペースには最初の乗用車・トラックから、最新のMIRAIまで、各時代を代Toyota A- History x02表するトヨタ車が並んでいる。その中には、先に触れたトヨダAA型乗用車(1936年)のレプリカ、初代クラウン(1955年)も展示してあった。 自動車生産においては、材料技術の進展が欠かせない。展示では、この分野での技術開発について部材の変遷と新旧対比、リサイクル、新素材について解説している。この進展の中で、大きく軽量化、強靭化、低環境負荷、低コスト化が図られてきたことがわかる。 また、これに向けての社内の開発体制の変遷を示す展示も面白い。そこでは、1960年ごろからの自主開発の確立、1970-80年代からの安全と環境、ニーズ多様化に合わせたて設計思想、デザイン開発、評Toyota A- Model car x 06価技術が急速に進化してきたことが指摘されている。 例示として、初代カローラ(1966年)、コロナ(1973年)、カムリ(1982年)、セルシオ(1989年)の実物と機能が解説されているほか、近年の「プリウス」(1997年)、プリウスのPHV(2012年)の実車展示、トヨタハイブリッドシステムの紹介コーナーも設けられている。また、安全技術、低燃費と排ガス低減技術の変遷、新しい動力源としての電気、ハイブリッドガスタービンエンジン、メタノールエンジン、水素燃料の解説紹介も逐次なされている。

♣ 自動車生産の開発現場を再現する「生産技術」展示

Toyota A- Illust x14 このコーナーでは、自動車の大量生産がスタートした1930年代にできたトヨToyota A- First stage x02タの最初の工場、挙母(ころも)工場の一部を再現したコーナー。AA型乗用車がどのようにつくられたか、鋳造、鍛造、機械加工、プレス、塗装、組立の生産工程を再現している。また、これに加えて、当時の生産技術と現在の技術を相互比較した構成になっており、生産ラインと加工技術がどのようにこの50年間進歩してきたかを確認できる展示となっている。これは、この自動車館展示のハイライトともなっているコーナーでもある。

<挙母工場時代の生産工程セクション>

Toyota A- Machines x02 ここには、1930年代の工場ラインの全体構成とともに、当時のAA型乗用車の組み立て工程、ボディー、フェンダ加工、エンジン・ブロックの鋳造、機械加工などが展示してある。そして、それ以降のプレス製作技術の変遷、プレス加工、現在も使われる大型トランスファブレスも併せて実物紹介されていて興味深い。

<鋳造と鍛造、機械加工工程の再現セクション>

Toyota A- Machines x01.JPG 挙母工場セクションの隣には、鋳造技術の変遷を示す展示が並んでいる。そこには、まず鋳造工程で1930-40年代のエンジン・シリンダー・ブロックの鋳造工程が展示してあり、同時に、それ以降進化した鋳造技術、自動高速高圧造形、アルミ合金高圧鋳造、合金ダイカスト法などが丁寧に紹介されている。 鍛造工程の変遷では、主にギヤやステアリング部品などの鍛造工程の詳細が解説展示されており、1940年代の初期の手作りのプレス鍛造工程作業現場と並んで、1960年代の2500トン、現代の6000トンクToyota A- Machines x03ラスの大型自動プレス工程などを比較して理解できる。これによりどのような変革が作業工程になされてきたかがわかるだろう。さらに、機械加工では、エンジン部品の機械加工を中心に、加工精度と速度の向上をめざして開発を進めてきた様子が確認できる。装置としては、クランクシャフトピン旋盤の導入(1964年)、トランスファマシン(1969年)の設置、そして、トヨタ製関節型穴明加工機(1996年)などが、このコーナーには展示してあり、現在のオートメーション化や多品種生産に対応するための機械加工の技術革新がいかになされたかわかる内容となっている。

<車体取り付けと塗装技術の動態展示>

Toyota A- Assembling x01 このセクションでは、最近車種生産に導入された自動溶接組付装置が設置されていて、ロボットによる溶接の自動化を動態展示によってみることが出来る。当初は、マニュアルの板金加工であったものが、この革新的な自動化の導入によって高品質なボディーが高速で大量生産できるようになったことが展示では示されToyota A- Assembling x02ている。塗装技術も、現在ではロボットによる自動作業に進化しており、展示では、作業の効率化と同時に車体表面の錆を防ぐ塗膜の付着性と表面の平滑性の向上がはかられている様子が動態確認できる。開発当初の刷毛による手作業やスプレーによる吹きつけ作業から、現在までの塗装装置の変遷、塗装材構成の進歩がいかに大きく進んだかがわかる展示である。Toyota A- Machines x05 この車体取り付けと自動塗装・焼き付けの作業工程に展示は非常にダイナミックである。車体パネルの部材がベルトコンベアに乗って運搬され、組付・溶接が自動的にロボットの手で次々に行われ車体が形作られてくる様子は圧巻の光景である。ここでは人の関与はほとんどいらず、電子制御による作業が自動的に進むことに驚かされる。

<アッセンブリーライン工程の動態展示>

Toyota A- Illust x11 車体組立、塗装が終わるといよいよ乗用車のアッセンブリー工程に入る。この現場はどのようにして車ができあがっていくかをみるには最適の工程である。これはフォードがベルトコンベアー方式を完成しで効率的な車の組立を行った工程の再現であるし、トヨタが「トヨタ生産方式」ジャストインタイムを取り入れた代表的な工程を示す動態展示でもある。Toyota A- Machines x07そこではエンジンのついたシャーシにボディーが取り付けられ、ドアやシート、タイヤや外装部品類が装着される様子が確認できる。一台の車には平均20000から30000点の部品の装着が必要とされ、これらの組み付け、接着、締め付けが行われている次々なされる姿が見られる。展示現場では挙母工場で実際に使われた流れ作業によるアッセンブリーラインが再現され、また比較の意味で、エンジンとシャーシを自動で組み付けるため現在使われている自動組付装置も併せて展示しており、この間どのような工程と装置の変遷があったかも展示解説されているのでわかりやすい。

♣ ヨタ生産方式の解説展示

Toyota A- Illust x16 複雑な形状をした多数の部品を組み付ける工程を自動化し効率化するには多くの技術的困難をともなうが、このためには装置のToyota A- Assembling x03導入とともに人の作業との理想的な組み合わせ、作業手順の信頼性、部品の無駄のない供給体制構築が欠かせない。このためトヨタにより創案され広く工場現場で採用されるようになったのが「トヨタ生産方式」である。この「生産方式」の考え方と実際の運営手法の解説コーナーが、生産工程展示の一角に設けられている。そこには、トヨタ生産方式の二つの柱である「自働化」と「ジャストインタToyota A- TPS x01イム」の基本概念としくみ、そのトヨタの考え方の源流、現在も進む「方式」の進化と発展、トヨタの車づくりに生かされた「方式」の実際が詳細に紹介されている。
たとえば、「異常が発生したら機械がただちに停止して、不良品を作り続けない」という考え方<自働化>や、「各工程が必要なものを必要なだけ供給して、流れるように停滞なく生産する」という考え方「ジャスト・イン・タイム」。そして、このための仕組みである“ひもスイッチ”、“アToyota A- TPS x02ンドン“、”かんばん“、”ロット生産”などが例をあげて紹介されている。一見シンプルなようでいて、よく考え抜かれた革新的なこの方式は、自動車生産ラインの現場展示で解説を受けてみると非常に納得できる内容であった。
また、トヨタが現在進めている「グローバル生産推進センター」(CPC)のグローバルな「カイゼン」システムの紹介なども興味深かった。

自動車館を見終わって

Toyota A- Illust x06 今回は、繊維館を訪ね自動車館を見学して、自動車生産が裾野の広い総合産業であることを自覚するとともに、時代とともに進化してきた産業技Toyota A- overview x 02術の体系の深さに改めて思いを広げることが出来た。また、当初の欧米の技術の模倣・習得からはじまり、長い努力と工夫をかけた開発によって独自技術を集積して世界に冠たる産業に成長した日本の自動車産業、とりわけトヨタ自動車の発展の姿と歴史的な技術開発の重みを感じることが出来たのも収穫であった。
Toyota A- overview x 05.JPG 現在、自動車産業を巡っては、ガソリン車から電気自動車へ、あるいは自動運転車の開発、環境と安全対策など急速に環境が変化する中、これまで世界の自動車産業をリードしてきたトヨタが、今後どう対応するのか非常に興味深いところである。展示に示されたトヨタの各種技術、生産方式、ビジネス戦略が将来どのように応用され生かされていくのか是非知りたいところである。この記念館は、その意味でも非常に貴重な体験であった。

(了)

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