トヨタ産業記念館を訪ねる(1)「繊維館」

トヨタの技術源泉と繊維機械事業の発展をみる 

ToyotaT- Logo x01 昨年、名古屋での研究集会に参加する機会があり、この機会を利用して「トヨタToyotaT- View x01産業技術記念館を見学訪問してきた。現在、自動車産業を巡っては、環境対策、電気自動車へのシフト、自動運転化技術の開発など非常にホットな話題にあふれるが、こんな中、自動車産業の成り立ちや今後を考える上で非常に参考になる企業博物館であった。これはそのときの訪問記録。
このトヨタ記念館は、1994年、トヨタの創業の基となった「豊田自動織機」栄生工場跡地に設けられたものである。トヨタ社の事業発展の歴史的軌跡を示すとToyotaT- Illust x02ともToyotaT- loom x04に、日本の機械産業技術の進化を跡づける施設として誕生している。記念館内部は、大きく繊維機械に関する「繊維機械館」と、自動車に関する「自動車館」の二つから構成されており、かつ、創業者の豊田佐吉・喜一郎の事績を示す「トヨタグループ館」が併設されている。ここには実際の工場の生産に使われた産業機械の実物が展示されていて興味深い。 また、ものによっては模擬的に稼働が可能である。

ToyotaT- Illust x03 記念館の内容は、展示物が歴史的建造物をなす大きな建屋の内部に設けられて非常に精密なものである。 筆者は、一日がかりで見学してみたが、繊維機械・自動車を中心として日本の機械産業がどのように技術的・事業的に進化してきたかを示すもので、産業発展の歴史をみる上で貴重な企業博物館あった。 展示が非常に多岐にToyotaT- Illust x01わたることから、この項では、明治以降、日本の主要産業の一つであった繊維産業を支えた「紡績・織機」の技術的発展を示す「繊維館」、現代日本を代表する産業の一つである自動車の歴史的発展と現代を示す「自動車館」、そして、トヨタ創業の沿革を示す「グループ館」の順番に分けて、訪問印象記を記してみようと思う。今回は、その第一部「繊維館」の訪問記録から始めることとした。

♣ トヨタ産業技術記念館「繊維館」展示

ToyotaT- person x01 記念館に入るとすぐの大ホールには、トヨタの創業者が1906年に発明したとされToyotaT- loom x01る「環状織機」の実物が記念館のモニュメントとして設置されている。これは超広幅の布を効率的に織り上げることのできる画期的な織機で、欧米の模倣が中心だった時代に日本の機械技術の独自の進化を証明したものといわれる。見学者を圧倒する精密な機械構造が見物である。
この入口ホールから中に入ると始まるのが記念館の「繊維館」である。繊維館は、まず、糸を紡ぎ、布を織るという基本的工程を歴ToyotaT- spin x02史に沿って解説展示している。そして、道具から機械への進化、初期の時代から現在に至る日本における紡績機械の発展、トヨタを中心とした織機技術の発展が、実際に使われた機械の展示を使って示されている。これを見ると、当初、繊維産業の発展にともなって欧米の技術を吸収しつつ日本の伝統技術を加え進化してきた機械産業の発展の姿がよくわかる。そこには、繊維機械の進化、機械加工・動力を使う技術の発展を通じて、時代の産業である自動車産業へ転身していったトヨタの事業過程がよく示されている。展示の内容について順を追って示すと次のようであった。

<伝統技術の展示>

ToyotaT- Illust x08 第一のコーナーは「伝統技術」の展示である。 綿などの短繊維に“撚り”を加えてToyotaT- spin x03織り糸にし、かつ手や腰など体を使って織物を織る過程が、日本の「腰機」、「地機」などで示してある。このコーナーでは、昔の糸車を使った「糸紡ぎ」の作業も実演されている。

<紡績機械の進化>

ToyotaT- person x04 日本の紡績事業は幕末・明治期に西欧の紡績機械を導入することではじまる。また、輸入紡績機の高価なため機械の導入は当初は国営企業や大企業に限られていた。ToyotaT- spin x05しかし、明治・大正にかけて綿糸織物は日本の主要輸出産業として大きな広がりを見せるなか、日本独自の簡易な紡績機械が強く求められた。そこで開発されたのが、1873年、臥雲辰致によって発明された「ガラ紡機」である。この機械は、日本独自の技術でつくられた精紡機として脚光を浴び全国に広がった。記念館では、この現物が水車を使った動ToyotaT- spin x10態展示してあった。 また、その後、1900年代、イギリスのプラット社が製造した粗紡機(そぼうき)、リング精紡機(せいぼうき)ともに、豊田自動織機が日本独自の技術を加えて開発した繊維機械も併せて展示している。なかでも豊田喜一郎が発明した粗紡工程をなくした画期的な「スーパーハイドラフトリング精紡機」はよく知られる。これらが時代を追って順に展示されている。
さらに、戦後になると、日本の産業技術の飛躍的進歩に併せて、全自動紡績システムが日本も開発される。高速カード、高速練条機(れんじょうき)、高速粗紡ToyotaT- spin x09ToyotaT- spin x12機、高速精紡機などであり、展示会場には、紡績機械がどのように技術進歩してきたかを示す多数の紡績機の実物が並んで展示されていた。

<織機技術発展の展示>

ToyotaT- spin x01 この織機コーナーでは、先の紡機で作られた「糸」を使って、「布」を織る過程が、人力織機から動力織機、自動織機、そしてコンピュータ制御による最新の織機まで、織機技術の移り変わりがよくわかるようにToyotaT- loom x03世代毎の実物で展示されている。まず、最初に展示してあるのは、日本で古来より使われていた「腰機」、「地機」、そして、これを改良した「高機」である。これらの人力による織物道具が明治前期まで広く使われていた。今でも、伝統的な織物にはこの道具が使われることがあるという。 これを機械化ToyotaT- Illust x12ToyotaT- loom x21.JPGしたのが通称「バッタン機」で、杼投と筬打をする装置を「髙機」に取り付けた織機。これはイギリスのジョン・ケイの発明(1733年)したものを、明治6年、織物伝習生として派遣されていた佐倉常七が持ち帰った後普及した。この現物も展示されToyotaT- loom x06.JPGている。その後、日本発の織機の数々が生み出されるが、このうち、豊田佐吉が開発した豊田式織機が時代を追って数多く展示されている。この中で、特筆出来るのは、佐吉が1924年発明・完成した「G型自動織機」である。これは無停止自働杼換装置をはじめ24の自働ToyotaT- loom x10化、保護・安全装置により、高速運転中にスピードを落とすことなく円滑に杼(ひ)を交換出来るもので、日本独自の織機技術が世界水準に高まった証左とされている。この一号機は日本の「機械遺産」にも指定され、主要展示の一つとして実際に稼働する様子が館内で再現されている。

一方、緞子などの紋様を織る機械として、日本では「空引機」が多用されていたが、明治以降「ジャッカード織機」が導入され紋織りの自動制御が可能となった。この技術進歩の様子や現代使ToyotaT- loom x17われている電子制御による自動織機の多くも実物で展示してある。ToyotaT- loom x16

ToyotaT- Illust x04 このほか、現代につながる織機の技術変化として「ウォーター・ジェットルーム」、「エアジェット・ルーム」のほか、コンピュータ制御による多彩な絵織り機などの実物が、豊田織機の主要織物機械の事例として数多く展示されてあった。これらをみることで織機の進化の過程や機械構造の中身がよくわかる展示である。ToyotaT- loom x13

ToyotaT- loom x15 ToyotaT- loom x18

ToyotaT- Illust x13 これら紡績機、織機の技術開発に使われた要素技術、特に、豊田織機の機械加工、制御技術への取り組み、自動化、安全化への追求は、後に展開されるトToyotaT- Illust x14ヨタの自動車生産の展開に大きく役立ったとされる。創業者の豊田佐吉、同喜一郎が、紡績・織機の開発を通じて蓄積した技術的背景、新技術開発への情熱が、困難を極めた自動車産業への転身とその後の発展へとつながっていることを納得させてくれるトヨタ産業技術館「繊維館」の展示内容であった。
次に、トヨタが織機製造を通じて培った技術を生かしつつ自動車製造・開発に向かう事業発展と技術背景について扱う「自動車館」の展示を見ていこうと思う。

(了)

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