川崎にある「東芝未来科学館」を訪ねる

 ―東芝創業の歴史とエレクトロニクス技術展開の足跡たどる

はじめに  

最近、川崎にある「東芝未来科学館」を訪問してきた。この「未来科学館」は、東芝の技 術開発の成果を伝える目的で設立されたものだが、併せて、日本の電子電気産業技術の歴史を示す貴重な博物館ともなっている。設立の基本コンセプトは、エレクトロニクスを中心とした最先端技術・科学の展示と情報発信、科学技術教育への貢献、産業遺産の保存・歴史の伝承となっている。

Hatsuden Try (Power generation trails)
発電トレイル展示 from: HP

館内の展示は、現代の科学技術の成果をビジュアルに観察できる数々の工夫がこらされていて、最近の科学技術の発展や歴史を生で体験できる。また、日本の近代産業遺産に連なる歴史展示も魅力の一つである。

創業時の開発品展示(ヒストリーゾーン)

 この施設は、1961年当初、川崎市郊外にあったが、2014年、JR川崎駅近くに移設・開館、大幅改装して新しい東芝の科学技術博物館として登場している。旧施設にも一度訪ねたことあるが、随分と展示内容が充実したように思えた。この博物館の中で、特に、私の関心を引いたのは、東芝の技術開発の歴史と企業の発展を示す展示であった。なかでも、東芝創業の前駆をなす発明品類展示(田中久重の万年時計や精巧なカラクリ人形など)、明治勃興期の電信機、電灯、発電機などの展示は、日本の電気電信技術の初期の発展の姿を示しており貴重なものと思えた。以下に施設の概要とその博物館の魅力について紹介してみた。

○ 東芝未来科学館   ( 神奈川県川崎市幸区堀川町72番地34)             
 なお、この博物館については優れた日本文と英語のホームページが用意されているので、もし、訪問の希望があれば事前に見ておくのが有益。http://toshiba-mirai-kagakukan.jp/visit/index_j.htm 
          http://toshiba-mirai-kagakukan.jp/en/index.htm    

♣  「未来科学館」展示」魅力

東芝未来科学館 に対する画像結果
「サイアンス・ゾーン 」展示:
東芝未来科学館 に対する画像結果
「未来ゾーン」展示

 まず、その博物館施設の構成について触れると、展示は、主題別に「未来ゾーン」「サイアンス・ゾーン」「ヒストリーゾーン」の三つに大きく分かれているのが特色である。このうち、「未来ゾーン」は、エレクトロニクス技術の展開で、将来、街の姿、家庭、ビルなどの建築物、医療、情報の姿がどのように変化するかを予測したビジュアルに示す展示であり、次の「サイアンス・ゾーン」は科学現象を実際に体験することを目指した展示と、来訪者がエレクトロニクス知識に触れ、楽しみながら科学技術を身につけることを目指す場となっている。 展示内容を解説してくれるインストラクターも常駐しており、体験学習を楽しみとして来訪する学生、生徒も多いという。 「ヒストリーゾーン」は、上記とはやや異なり、企業としての東芝の発展を伝えるコーナー、東芝の技術開発の歴史と開発された製品群の展示、電気・エレクトロニクスの技術発展の姿を示す展示となっている。いずれも、歴史的に重要な技術、製品の紹介展示である。

♣ 創業と発展の歴史を伝える「創業者のコーナー」

 「ヒストリーコーナ」のうちで貴重と思われるのは、「創業者のコーナー」及び「東芝開発技術・電気製品一号ものがたり」展示であった。このうち、もっとも力を入れていたのはのは、創業者田中久重、藤岡市助の事績を伝える様々な逸話と科学的発明実物展示と解説である。

<田中久重と東芝>

田中久重

  東芝の創業者として知られる田中は、日本の江戸時代から活躍した発明家で、「カラクリ儀右衛門」ともよばれ、数々の複雑な機構を持った機械人形や灯火製品、時計などを発明、後に、田中製作所、芝浦電気製作所を設立し、東芝(東京芝浦電気)の基礎を築いた人物である。      

 日本の機械加工技術がいかにその基礎を築いてきたかをみる上で貴重な歴史遺産であることが展示で分かる。19世紀の江戸で、これら精巧な製品が発明されていたことに驚きを覚えるが、これらの技術が、その後の近代機械・電気機械産業を早い時期に発展させる契機となったことが示されている。

日本で最初に作られた蒸気機関車模型、複雑な構造を持つ「和時計」、精巧な「からくり人形」、「懐中燭台」、「無尽灯」などはよく知られている。日本の産業界は、このうち、田中の発明品の粋である「万年時計」に注目し、1970年代、その復元品の製作を行ったが、その技術の高さに驚嘆したという。
URL: http://www.tofugu.com/2013/07/29/tanaka-hisashige-father-of-toshiba-edison-of-japan/) “Tanaka Hisashige: Father of Toshiba, Edison of Japan”

また、その他の「発明品」も世界的に貴重なものも多く、今日のロボット技術などに反映されているといわれる。

<藤岡市助と東芝>

Ichioka Story
藤岡市助とその製作機器

 一方の第二の東芝創業者藤岡は、日本の電気工学の基礎を築いた人で、日本で初めての電灯や発電機、モーターなどの技術を開発、「東京電灯」という電力会社を設立した。これは後に芝浦電気と合併し、現在の東芝になっている。市岡は、明治期に、日本での白熱電灯の開発と普及、路面電車の設計製作、国産エレベーター製作など、日本の電気産業発展の源流をなす技術発展に大きく貢献した。この事跡は、様々な展示、パネル解説などで詳しく紹介され、日本の電子電気産業の勃興期の様子を伝えている。

<「東芝一号ものがたり」の展示> 

1号機ものがたり
東芝一号物語の展示

 次の「東芝一号ものがたり」は、東芝創立100周年を記念して収集・展示したのもで、電化製品としては日本で初めて開発に成功した電気製品群を年代別に実物展示している。日本において、電気製品がどのように普及していたか、日本の技術が電気製品にいかに生かされてきたかを伝えている貴重なコレクションである。このうち多くは日本の産業遺産に指定されている。このうち、貴重な展示では次のようなものがある。

  明治期のものでは、日本ではじめて作られた白熱電球(1890年)、同 水車発電機(1894年)、同 誘導電動機(1895年)、大正期の国産X線管(1915年)、三極真空管(1917年)、二重コイル電球(1921年)、国産電気機関車(1923年)、日本初のラジオ受信機(1924年)、 昭和に入って、電気洗濯機(1930年)、冷蔵庫(1930年)、蛍光ランプ(1940年)

1890年 日本初の白熱電球
日本初の白熱灯
1894年 日本初の水車発電機
水車発電機
1915年 日本初のX線管
X線管
1924年 日本初のラジオ受信機
ラジオ受信機

、万能真空管(1943年)、テレビ放送機(1952年)、計数計電子計算機(1954年)、自動式電気釜(1955年)、


郵便物自動処理装置((1967年)、日本語ワードプロセッサー(1978年)、MRI装置(1982年)、ラップトップPC(1985年)、NAND型フラッシュメモリー(1991年)などが歴史的な開発製品群として紹介されている。

1923年 日本初の40トン直流電気機関車
直流電気機関車
1940年 日本初の蛍光ランプ
蛍光ランプ
1930年 日本初の電気洗濯機
電気洗濯機
1955年 日本初の自動式電気釜
自動式電気釜
1978年 日本初の日本語ワードプロセッサー
初の日本語 Word Processor
1985年 世界初のラップトップPC
世界初のLap Top PC

 

1991年 世界初のNAND型フラッシュメモリー
NAND Flash Memory

 

 


明治以降、昭和に至る日本のエレクトロニクス産業の一角が東芝の技術によって大きく牽引されていたことが展示で示されている。誠に貴重な展示といえるだろう。

最後に

 この博物館をみることで、日本が明治以降の産業近代化の過程で、西洋の技術を積極的に吸収しつつ、日本の持てる技術伝統を活用して、いかに独自の技術体系と築いていったかに深く感動せざるを得ない。これは、戦後の日本の工業技術の展開にも通ずるものがあるように感じる。しかし、日本のエレクトロ産業は、ビジネスの上で80年代にピークを迎えた後、途上国の追い上げとグローバル化と情報技術の洗礼で、現在、やや困難な状況にあると思われる。特に、かって世界をリードした半導体産業の凋落は顕著な一例かもしれない。

 しかし、基礎体力と技術の上では依然として高い位置にあることは、博物館の展示でも感じられた。また、現在、東芝は経営上の問題を多く抱えているが、博物館に展示された文物を見

る限り、東芝技術の系譜には確かなものがあり、これら蓄積された技術をどう現在に生かすかが課題であると思われた。少なくても初期に発揮された創業精神、社会性は時代を先取りする先進性にあふれたものであったとの印象を受けた。これからの発展を期待したいところである。また、この博物館は、ひるがえって産業の発展を企図するアジア途上国にとっても参考になる展示や資料が数多いと感じた。

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参考文献:

  • 東芝の歴史/TOSHIBA SPIRIT(東芝未来科学館)
  • 東芝百年史(東京芝浦電気) 1977
  • 東芝百二十五年史(東芝) 2002
  • 「東芝一号ものがたり」(東芝未来科学館編)
  • 今津健治「からくり儀右衛門―東芝創立者田中久重とその時代」 (ダイアモンド社)1977
  • 林 洋海 「東芝の祖 からくり儀右衛門―日本の発明王 田中久重伝」
  • :「からくり儀右衛門の発明人生」(東芝未来科学館)
  • 「藤岡市助ー我が国電気事業の先駆者ー」(東芝未来科学館)
  • 万年時計復活プロジェクトhttps://toshiba-mirai-kagakukan.jp/learn/history/toshiba_history/clock/project/index_j.htm