日本工業大学の「工業技術博物館」を訪ねる

ー 博物館の展示から日本の機械産業の発展の基盤をみる

Museum NIT- Logo x01埼玉にある日本工業大学構内に「工業技術博物館」があると聞いて先日訪問してMuseum NIT- Overview x05みた。同大学は実践的で高度な工学教育を行っていることで広く知ららる。博物館には、明治以降の日本の産業発展に貢献した各種の工作機械類、歴史的な機械設備が数多く動態保存されていた。また、先進的なNC装置、エンジン、省エネ・ガスタービンなど最近のMuseum NIT- Overview x03産業機械を展示されているほか、明治大正期に機械加工に関わる町工場の様子も再現されており、日本の「ものづくり」がどのように現場で展開されてきたかを観察できる。日本の産業発展の姿を機械産業の視点から見るには最適の博物館である。なお、同博物館の所蔵する270点余は日本機械学会の「機械遺産」(2018)に指定されている。

 

♣「工業博物館」の目的と特徴

Museum NIT- Illust x01 訪問するに当たって考えているみたが、今日、日本の産業機械技術は産業ロボッMuseum NIT- Overview x04ト製作に代表されるように世界のトップクラスを誇っているといえるだろう。しかし、その縁源をみると工作機械(特に鉄製)の製作技術は明治になって初めて導入されたもので、その習得は容易でなかったとおもわれる。このため、工作機械類の多くは昭和初期まで西欧からの輸入品に頼る状況が長く続いた。しかし、多くの時間をかけ技術者の機械製作Museum NIT- Machine x03技術の吸収と導入が積極的に行われた。これにより、逐次、産業機械の輸入・運用からはじめて、その模倣製作、技術提携・導入による改良と開発、その内製化の過程を経て、ようやく独自技術の開発にむつびつけた。そMuseum NIT- Machine x06して、戦後、日本の機械製作技術は急速に進化して今日の水準を保っている。この歴史過程を工場で実際に使用されきた実物を動く形で動態展示しているのが、この「工業技術博物館」である。そして、これを工学教育・研究開発に実践的に生かそうとしている点に特徴がある。日本の機械産業を中心とした産業近代化の歴史を確認するには最適の施設あると思えた。以下は、この訪問記録。

♣ 「工業博物館」展示の概要

Museum NIT- Illust x12 博物館には、明治以降、昭和50年代に輸入または国内製造された歴史的工作機械Museum NIT- Machine x01270点余が年代別種類別に展示されている。工作機械は、大きく分けて旋盤、ボール盤、フライス盤、研削・仕上盤、特殊加工機、そして複合工作機械としてのマシニングセンターなどに分類できる。博物館には、明治中期に使われた「手回し式旋盤」(池貝製作所作成の復元)、昭和初期のプラット&ホイットニー社『普通旋盤131NCHB』、フリードデッケル(ドイツ)の万能フライス盤(大正10年頃使用)、吉田鉄工所の『直立ポール盤』(1950年代)、シップ社(スイス)の『ジグ中Museum NIT- Machine x18.JPGくり盤3R形』、多機能工作機械類では、ケルニー社(米)「マシニングセンターEb形」(1970年代)、日立精工株式会社『マシニングセンターMBN-330形』(1970年代)など、歴史的な工作機械が数多く展示されている。また、館内には、明治年代の機械加工町工場の復元もなされて博物館の呼び物の一つとなっている。工作機械のほかには、明治大正期に使われた各種織機、近年の発電用高性能ガスタービンの実証プラント(1987年、民間の技術研究協会が設計)、ガラス製水銀整流器(1961年日本電池)、そして、明治年間(1891)に使われた実際に動かしてみせる英国製蒸気機関車”Dub 2100型”など、機械産業の過去・現在を振り返ってみられる貴重な展示が並んでいる。

♣ 輸入からはじまった「工作機械」の活用と製作  

Yokosuka- Illust 09Meiji- Illust x04 日本に近代的な工作機械が導入されたのは幕末の1857年、幕府が船の修理用にオランダから輸入したことにはじまるという。また、これに前後して鹿児島薩摩藩の集成館機械工場、佐賀藩の精練方などで一部実験Museum NIT- Machine x36Museum NIT- Person x01用に使われた形跡もみえる。そして、明治維新後になると外国からの輸入した機械によって造船所や軍工廠が運営され、その中で徐々に工作機械技術者が育っていった。(横浜造船所や長崎造船所での修船作業、明治初めの鉄道事業にも輸入工作機械が使われている。)
こうしたなか、1889年、東京に小さな町工場(現池貝)が創業した。旋盤職人・池貝庄太郎が自家用として手回し式の英式旋盤2Museum NIT- Machine x05台を製作したのである。これが国産初の近代的工作機械とされている。博物館には、この復元機が設置されている。 また、1872年、工部省赤羽工作分局で実習用に製造した菊花御紋章付「平削り盤」も存在し、現在、明治村に展示されている。これらは、日本の機械工業黎明期の実情を伝える機械として非常に貴重なものとなっている。その後、1900年代位までに、新潟鐵工所(1894)、大隈(1903)、唐津鉄工所(1910)、日立精機(1910)など幾つかの端緒的な工作機械のメーカーも生まれ、日本の工作機械製作の黎明期を迎える。 しかし、日本の近代産業を支えた工作機械のほとんどは、依然として英国、ドイツ、米国などからの輸入に全面的に依存せざるを得ないMuseum NIT- Machine x13状況が戦後まで長い間続いた。
Museum NIT- Person x02 博物館には、これら輸入工作機器の例として、Craven Borthersの「車軸旋盤」(1905)、Brown & Sharpe Mfg.の「膝型「万能フライス盤」(1921)、Mikron社の「ボブ盤102型」、Gleason Works「カサ歯車歯切り盤」(1910)などが展示されている。 国産のものでは、大隈鉄工所「タレット旋盤」(1920)、唐津鉄工所「ラジアルボール盤」(1929)などが代表例として展示してある。しかし、国産のものは、多く西洋モデルを模倣下ものが多くで品質も優れなかったという。

<明治・大正期の機械工場再現>

Museum NIT- Illust x14 なお、博物館の目玉展示の一つは、1907年(明泊40年)に植原栄助が東京・三田で創業したMuseum NIT- Machine x04町工場・植原鉄工所の再現である。同氏は池貝鉄工所に旋盤工として長年勤務していたが下請け工場として独立した。この町工場の様子が、そのまま残って展示されているのである。工場は電動機を使い、池貝鉄工製の旋盤等、多数の工作機械を動かして、廃業するまでの六十数年間、各種機械部品を製造している。当時の機械工場の様子が生の形で見学できるのは貴重である。

♣ 国産技術の形成と工作機械の高度化

Museum NIT- Illust x07 1910年代の第一次大戦は日本の工作機械にとって追い風となった。欧米からMuseum NIT- Machine x14日本への工作機械の輸入が途絶えたため国内産業が勃興し、池貝鉄工は英国、ロシアへ旋盤を輸出を開始するなど、国産機械の先駆けとなる事業展開もみえてきた。また、1930年代以降、自動車産業が盛んになるに従いトヨタは工作機械の自給を目指し、日産は量産自動車工場を完成させるなど機械産業の新たな発展の芽も見せている。しかし、なんといっても日本の本格的な工作機械の製作・普及は戦後高度成長期のことである。この戦後過程では、戦後の経済・産業発展がToyota A- Illust x15急速に進んで工作機械の著しい需要増加が発生し、その発展を促した。そして、技術的にいまだ未熟であった国内工作機械メーカーは欧米の企業と提携し、先進技術の吸収に勤めた勤めた。その結果、国内工作機械の技術水準は飛躍的に向上し、その後の発展につながることにMuseum NIT- Machine x16なる。中でも独自性を発揮したのは放電加工機の開発やNC装置の積極的な導入だったという。特に、NCの導入は特に日本の競争力を飛躍的に高めた。
博物館には、この頃の輸入工作機械各種、国内メーカーの製作機械が数多く展示されている。例えば、Kearney & Treckerの「マシニングセンターEB」(1970)、Lees-Brannerの「6軸ボボ盤HD-40」、松浦機械の「プログラム制御フライス盤S-2」(1962)、 池貝の「数値制御旋盤LX-20N」(1978)、日立精工の「マシニングセンター MBN-330」などである。日本の工作機械の発展をみるには最適のコレクションであろう。

♣ 近年の機械技術発展と工作機械の高度化

Museum NIT- Illust x11 日本の工作機械製作技術は1970年代には世界水準に達したと言われ、1980年Museum NIT- Machine x20代には米国を抜き工作機械の生産額で世界一となっている。特に貢献度の大きかったのはNC装置器機の開発、技術進歩であった。これらは日本の自動車、電気・電子器機、各種機械産業の発展にも大きく貢献した。 また、1990年代以降、産業界で特に発展が目立ったのは産業ロボットの広範な導入であった。この中でファナック、安川電機、アマダなどの先進企業が育ち、世界的にも大きなシェアを占めるまでになった。

これらの産業ロボットは、今Museum NIT- Machine x31Museum NIT- Person x03日、自動車の組立・塗装、電子部品の生産現場で広く採用され、日本の製造業の発展に貢献している。一方、NC装置の工作機械分野では、ヤマザキマザック、森精機、オークマなどが有力なメーカーとして国の内外で活躍している。しかし、博物館では、これら最近のマザーマシーンや産業ロボットは残念Museum NIT- Machine x28ながらあまり多くはみられなかった。コレクションは歴史的な展示物に重点があるためと思われる。 しかし、一方、産業機器類では、1980年代、工業技術院が「ムーンライト計画」で開発した高効率ガスタービン、水素エンジン、新型ロータリーエンジン、スターリングエンジンなどの実物モデルが博物館には展示されており、近年の技術動向を伝えるものとなっている。

見学を終えて

Museum NIT- Logo x04 この工業技術博物館は、日本工業大学創立80周年の記念事業の一つとして開設さMuseum NIT- Machine x25れたもので、学生の実学教育・研究の実践を目指すとともに、一般にも公開して工業技術の普及を目指すものだった。明治以降に製作された工作機械をよくこれだけ体系的に集めたものだと感心させられる。また、この多くは動態保存がなされているため実際に動かして機能や作業内容を確認できる。日本の近代化過程で、これら工作機械がどのように使用Museum NIT- Machine x33され、産業発展に貢献してきたかを検証する上で貴重な博物館であると改めて感じた。特に、明治年間の町工場の再現、池貝の国産第一号の手動旋盤、高性能ガスタービンなどの展示は圧巻であった。また、 時間の関係で実際にみることは出来なかったが、大学内で実際に運行させている1890年代Museum NIT- Illust x06の英国製蒸気機関車なども見学できるのは魅力である。ともあれ、機械技術進化の動態展示と大学の工学教育・研究活動を有機的に結びつけて活動しているユニークな博物施設であると感じて帰路についた。

(了)

Reference

 

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