横浜の「シルク博物館」を訪ねる

  ―生糸・絹生産の歴史に近代産業史の曙をみる― 

 「シルク博物館」は、生糸・絹織物に関する総合的な展示博物館。横浜の中心街の一つ中区山下町、山下公園の近く日本大通りに面した「シルク国際貿易観光会館」の中に設けられている。近くには、「横浜開港史料館」、「横浜開港資料館」などもあり、日米和親条約が締結された記念すべき土地でもある。また、明治初期、生糸貿易を中心に外国貿易商人が活躍する「居留地」の一角でもあった。同博物館は、「昭和34年横浜開港100周年」を記念して英国ジャーディン・マンセン商会(当時居留地内)のあった場所に設立され現在に至っている。

 館内には、日本の絹産業の発展の歴史を中心に、横浜と絹の歴史、絹の製造工程、絹の服飾工芸品などを展示しており、絹産業の技術や工芸の発展を促すこと、絹産業の普及。広報を目的としている。ここには、蚕・生糸・絹織物に関する日本や世界や日本の多様な品々が陳列されており、製作過程に関わる種々の機械や道具なども実地体験出来るように工夫されている。その歴史的重要性に鑑み、2011年には天皇・皇后陛下も、この施設を訪問している。

♣ ♣ シルク博物館 
   〒231-0023 神奈川県横浜市中区山下町1 シルクセンター 2
HP: https://www.silkcenter-kbkk.jp/museum/

 シルク博物館の展示内容

Exhibit of silk products

 シルク博物館のフロアー・マップによれば、館内は、三つのコーナーにわかれていて、(1)「しらべライブラリー」、(2)「ふしぎライブラリー」(3)「シルクの歩み:世界と日本」、となっている。(1)では、絹産業が横浜とどのような関連があったか、暮らしの中で絹繊維がどのような形で生きているか、をテーマに説明パネルと実際の製品の展示を行っている。 (2)は、絹の基となる蚕の性出や種類、飼育の技術などの展示、生糸を加工し絹織物に仕上げていくための機械や道具の時代的推移、産業としての生糸・絹産業の展開などが、豊富な説明パネルと実物で紹介されている。また、展示では、将来のシルク繊維の可能性や技術的発展性にも触れており興味深い。(3)は、世界と日本の絹織物衣装の変遷が展示されている。

その中では、日本で古代から現代まで、どのような絹の衣装が珍重されてきたか、そのファッション性や衣装の使い方などがどのように変化してきたかの展示で興味深いものがある。また、世界の絹を中心とした衣装の総合比較も面白い。世界中でどのように絹織物が使われ、珍重されてきたかがわかる展示である。

  展示に見る日本における絹産業の発展

 これら展示のうち、私にとっての主要な興味は、絹の産業としての発展がどうであったのか、加工技術の変遷や発展がどのようであったのかという点であった。これらに関しての専門的な説明は決して十分ではなかった印象であるが、展示されている加工機械や道具の数々は時代の変遷を見事に伝えていて勉強になった。

 例えば、繭から糸を紡ぐ「座繰り」という処理やその道具の変遷、その機械化自動化の過程(紡績技術の展開)、手織りから機械に徐々に移っている紡織過程など、現代産業の技術変化にも通じるものがある。そして、日本の産業近代化の過程で、最も重要な輸出産業であった「絹」が、どのような形で品質を高め、技術を発展させ、世界的な競争力を持てるようになったのか、展示品をみることで概要を知ることができる。

 紡績技術についても、地元の手作業家内産業から、工場による大量規格品生産への転換、加工機械の技術改善による製品品質の向上、輸出競争力の向上など、絹産業の発展が、いかにして明治以降の繊維産業、絹から綿へ、合成繊維への産業展開、ひいては機械産業の発展全体を促してきたかの片鱗が、これらの展示を見ることによって感じられた。また、絹産業が如何に、日本のみならず世界中で生産され、使われてきたか、技術の伝搬が世界でどのようになされてきたかを改めて知ることになった。また、会場には、絹・生糸産業の発展の歴史と横浜に関する錦絵の展示などもあり興味をおぼえた。

♥ 最後に

 以前、私の生まれ故郷である群馬県富岡市の「富岡製糸場」がユネスコ世界遺産に指定されたのを機会に、この製糸場跡時の印象を紹介をしたことがあった。その際、ここで生産された「生糸」が明治以降日本の最も重要な輸出品だったことに触れた。それ以来、この生糸輸出がどのような経路をたどり輸出されていったか、どのような産業技術として生糸・絹産業が日本の中に蓄積され、産業として展開されたかに強い興味を持ってきた。その中で、輸出の主要な窓口港として、横浜があり、これが日本の政治近代史にとって重要であったと同時に、生糸・絹が近代産業史でも重要な役割を果たしてきたことを改めて認識した。こういった背景があり、今回、横浜にある「シルク博物館」を訪ねてみた。以下は、その報告を兼ねた印象記録であるが、今回のシルク博物館の訪問は、これらを感じる上でも貴重な体験であった。

(了)

参考資料