―明治期の社会と産業発展を展示するテーマパーク
名古屋郊外の犬山にあるテーマパーク「明治村」に行ってきた。この明治村
は、明治期に建てられた日本の伝統建築物や欧米様式の建造物を全国から移設・復元し展示している。
これらは国の重要文化財に指定されている建物も多く、歴史遺産維持としても重要な役割を担っている。この中に、明治5年(1872)に鉄道車両の修理所として建てられた「故新橋寮新橋工場」の建物があった。これは園内では「機械館」とも呼ばれ、初期の鉄道建設・修理に使われた機具、初期の金属加工機械等が展示されている。また、明治の産業勃興期に使われたさまざまな産業工作機械類も合わせて展示公開している。
私も、この明治村と産業展示施設を興味深く見学することができた。これは、このときの見学記。
- 博物館明治村所在地:〒484-0000 愛知県犬山市字内山1番地
明治村ホームページ http://www.meijimura.com/about/ - 明治村ホームページ(English) http://www.meijimura.com/english/
♣ テーマパーク「明治村」とは
「明治村」は、愛知県犬山市郊外の広大な丘陵地を利用して、明治期はじめ大正昭和に至る歴史的建造物、公共施設、ホテル、教会などの100を越
える建物群を、日本各地から移設、復元して展示している珍しいテーマパークである。
明治期、日本社会近代化が進む中で全国に作られた建造物、施設は、産業遺産として重要で歴史的の非常に価値の高いものが多数含まれている。これらは、日本が古来の伝統的建築手法を維持すると共に西洋の近代的建築技術を積極的に取り入れて建設されており、当時の産業と社会の近代化過程を暗示させる貴重な建造物遺産ということができる。しかし、これら建築物は相次ぐ震災・戦災によって多くが失われ、また、戦後、経済の高度成長下の開発により姿を消すものが相次いだ。
こんな中、明治100年を迎え、各地で失われていく「遺産」を惜しみ、日本の産業・社会の近代化の足跡を残そうという機運が育っていった。これらの動きを受け、建築家谷口吉郎氏と名古屋鉄道会長の土川元夫氏が、各界の協力を得て昭和40年(1965)創設したのが、この「明治村」であった。そし
て、その後、名古屋鉄道系列のテーマパークが経営主体となって現在に至っている。
村内の建造物・施設の多くは国の有形文化財に指定されていて、100余点の建造物の内10件以上が国の重要文化財となっている。日本社会の近代化を象徴する鉄道、郵便、酒造業、病院、裁判所、居小屋、学校、教会、灯台など明治の社会、文化の様々な領域の建物を取上げて移築してあり、これらを、時空を越えて一望することが出来ることが「明治村」特徴でもあると思われる。
特に、明治期の建築物の中に、当時の生活スタイルや社会状況を反映する調度品、器具類、書類や写真などが展示されていて、建物自体の魅力を鑑賞できるほか、この時代の時代背景を知ることができる。
<歴史遺産の建造物>
このうち建造物の主なものをあげると、現存する最古の洋式灯台「旧品川灯台」(明治3年(1870))、六郷川鉄橋、初期の日本人設計の西洋建築・三重
県庁舎(明治12年1879建設)、明治期の木造郵便局・宇治山田郵便局(明治42年1909建設)、旧日本聖公会京都聖約翰教会堂、札幌電話交換局、京都聖ヨハネ教会堂、森鴎外・夏目漱石住宅などである。また、大正期になるが、フランク・ライトの代表作として知られる「帝国ホテル」の正面玄関も移設されている。
また、建築物だけでなく、明治天皇御料車(6号御料車)(鉄道記念物)、京都市電車両(明治28年1895年製造)、日本初の公衆電話ボックス(明治33年1900年建
築)、イギリスから輸入された蒸気機関車12号(明治7年,1874導入)などの珍しいものも展示してある。いずれもが、日本の建築、土木の歴史、交通、通信の近代化を象徴するものである。
この中にあって、特に、明治期の日本の産業発展過程を見る上で欠かせないのが、明治の鉄道開発を象徴する「鉄道寮新橋工場」(機械館)」建屋とその内部の産業機械の展示である。
♣ 「旧鉄道寮新橋工場」(現機械館)」の展示
鉄道寮新橋工場は、日本ではじめて鉄道が走った明治5年、機関車修復所として作られもので、1986年、日本の鉄道の発展を見る上で貴重な建造物として明治村に移設されたもので
ある。鉄道技術が全くなかった日本は、当初、すべての建設材料と工作機器をイギリスから輸入して施設を作ったといわれる。しかし、当時のエンジニアは、多くの鉄道技術
を徐々に学んでいき、明治年間には施設の国産化を進めた跡が見られたという。
明治村では、この施設を近代鋳造技術の手本として位置づけると共に、内部に、日本の産業近代化の過程で使われていた動力機械、工作機械、繊維機械など多数の機械類を全国から集めて展示し、「機械館」として公開している。いずれもが貴重な日本の産業技術の発展を示す産業遺産である。
<数多くの明治期工作・繊維機械展示>
例をあげれば、明治期の鉄道機関車、貨車の重量部品などを加工した「蒸気ハンマー」(明治14年1881年導入)、富岡製糸工場で原動機として使われていた「横形単気筒蒸気機関」(ブリューナ・エンジン、明治6年、1873年輸入設置)、北海道小樽市の日和山燈台
で使われた「霧信号用蒸気機関」(逓信省横浜製作所製、明治30年1897年製)、日本人製作の最古の工作機械「“菊花御紋章付”平削り盤」(工部省赤羽工作分局製、明治12年1879年製)、流体力学を利用したといわれる最初の国産揚水ポンプ「“ゐのくち式”両吸込渦巻ポンプ」
(国友機械製作所製:明治45年1912年製造)、初期の日本紡績業を支えた「紡毛ミュール精紡機」(英国製)や「リング精紡機」(米国製)、水車を使って紡績を行う「ガラ紡」紡績機(日本人技師・臥雲辰致の発明:明治初期)、金沢の上辰巳発電所で使われた「フランシス水車」(米国製、大正2年 1913年製)などが展示してある。
これらを見ると、産業用金属加工の技術のなかった日本が、当初、工作機械や発電機、蒸気機関などを輸入して各種産業発展の基礎を作ると共に、その製作技術を学んでいく中で、徐々に独自の工夫を加えた機械を日本の国内で作りこれを普及させていった様子が浮かび上がってくる。
日本の紡績業の発展を見る中でも、当初の輸入した機械ミュールやリングの精紡機の活用から、統綿機、練条機、粗紡機の応用、国産化など
に進んでいく歴史過程が確認できる。展示の中には見られなかったが、豊田式の自動織機の発明など日本独自の発展を紡績・織機の発展の中に見ることができるだろう。展示の中では、日本の伝統木造技術を使った安価で使いや
すかった「ガラ紡」など独自のものが生み出され、地方に広く普及して紡績業発展の大きな発展に結びついていった姿が確認できる。
これらは、日本の産業技術発展を見る上でも非常な産業遺産展示である。また、各展示物には、歴史的意義を示した解説展示ボードがつけられており展示物の背景がわかりやすい。
♣ 訪問後の印象
この「明治村」を訪ねるのは実は1994年に続いて2回目であった。当時に比べて建物の数も増えより充実したテーマパークになっているように感じた。江戸末期から明治にかけて日本社会は、数々の社会・政治改革を行って
今日の産業社会を築いてきたが、その遺産となる文物、特に建造物が忙しい現代社会の変化の中で次々と姿を消しつつある。特に、明治年間から100年、当時のものは記憶や記録から遠ざかりつつあるのも事実である。こういった中で、消えゆく文化遺産を歴史記録として復元するこのような「明治村」の試みは貴重といえるだろう。日本が、
鎖国と封建制度を脱して、西欧の制度や技術を学びつつ社会の近代化を進めた姿が、この「明治村」の建造物展示の中に映し出されている。
産業分野では、「機械館」の展示に見るように、近代技術を消化し新しい産業の種を作り出そうとした「明治人材」の努力を見ることができる。建造物でいえば、明治期西洋から学んだ日本人建築家が、日本の伝統的な建築手法に加えて石造。煉瓦などによる新しい近代建築洋式を生み出していった姿(イギリス人建築家コンドルに学び東京駅を設計した辰野金吾など)、また、鉄道でいえば、技術者モリスが長州出身の井上勝とともに、後輩鉄道技術者を育て、日本の鉄道インフラの基礎を築いている。これらに関係する歴史的建造物のうち一部しか「明治村」の建造物の中には収用されていないが、その思いとコンセプトは十分展示の中に見ることができる。
その意味で、この「明治村」は、単なる懐古趣味に陥ることなく、歴史の重みと意味を感じさせる文化財的テーマパークであるように感じた。時間があったら、もう一度訪ね見落としたものも含め、じっくり吟味したいものである。
(了)
Reference:
- 博物館・明治村ガイドブック(名鉄インプレス刊) 2015
- 明治村案内パンフレット
- 明治村ホームページ http://www.meijimura.com/about/
- 明治村ホームページ(English) http://www.meijimura.com/english/
- 博物館・明治村の楽しみ方 http://www.meijimura.com/enjoy/sight/asset/
- 博物館・明治村の楽しみ方 (鉄道寮新橋工場)http://www.meijimura.com/enjoy/sight/building/4-44.html
- ウィキペディア https://ja.wikipedia.org/wiki/博物館明治村
- 明治村 《-愛知(名古屋)観光地紹介サイト-》http://www23.atpages.jp/eterfriend/aichi/seibu/meizimura.htm
- 明治村機械館(愛知の産業遺産を歩く 25)石田正治