―計算機とコンピューターの歴史をわかりやすく展示する大学博物館ー-
東京飯田橋にある東京理科大学は、明治時代に作られた洋館風の校舎を模
様替えし1991年に設立された。この資料館は日本で有数の計算機、コンピュータ関係のコレクションを誇っていることで知られる。私は、数学に詳しい友人と一緒にこの博物館を4月訪ねてみた。
これは、そのときの印象を記した訪問記。
「近代科学資料館:〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3
Home page: https://www.tus.ac.jp/info/setubi/museum/
♣ 科学資料館の概要
この資料館はそれほど広くないが、その展示はきわめて豊富で、古代の原初的な計
算器具から現代の電子計算機に至る多様な計算用具が時代別に解説付きで展示してある。この博物館の案内には理科大の学生が当たっていて、訪問者に展示内容を丁寧に紹介してくれている。学生の教育的観点からも優れた試みであるように思えた。また、この施設には階下に「数学教室」が併設されていて、幾何や代数、統計学などを視覚化して教えるコーナーを設けていて数学好きの訪問者を歓迎している。
♣ 先史時代の計算道具の展示が魅力
博物館の最初のコーナーには、先史時代の「数える」道具類が陳列されている。この中には、石や木を使って数を数る道具類、古代の「算
木」呼ばれる計算道具などが含まれてい
る。また、次のコーナーは、古くから使われた「そろばん」の展示が見える。原初的「そろばん」から、近代まで広く使われた上下段付きの「そろばん」まで、古今東西のそろばんが数多くそろえてある。中でも、中国のそろばんの歴史を示すもの、日本の近代以降広く使われた各種そろばんの展示は見事である。これらを見ていると、人類にとって「計算」と
いう行為が如何に大切であり、そのためにあらゆる工夫を凝らしてきたことがよくわかる。
♣ 近世以降の計算具がずらり
そろばんと並行して近世以降、開発された計算道具は各種あるが、機械式の計算機と計算尺、アリスモメーターなどが展示されてある。資料館には、17世紀に発明された「ライプニッツ計算機」のレプリカも展示されていた。日本のものでは、「和算」に使われた「算木」のほか、近代
の開発が盛んに行われ
示されていて、西欧の計算機技術を導入しつつ日本の計算機ていたことがわかる。
♣ 日本のそろばんと計算機の変遷
戦後も、日本では長い間「そろばん」が最もポプラーな計算器具として使われていたが、1950年代以降になると機械式の計算機が広く使われるようになる。このうち最も広く使われたのは「タイガー式計算機」である。資料館の機械式計算機のコーナーには、このタイガー
式計算機の歴代モデルが幅広く展示してある。また外国モデルの機械式計算機も数多く展示されていて、国ごとの特色がよくわかり興味を引く。このころ電動式の機械計算機も出現しているが、このうち「モンロー式計算機」が有名であった。その頃の値段で数十万円もしたというか
ら非常に高価なものであった。
また、日本では、カシオがリレースイッチを使った電気式計算機を開発しているが、この貴重な初期モデル「 Casio 14-A」も展示してある。
♣ 「計算」に革命を与えた電卓の普及
1970年代になると、半導体の技術により電子式の「計算機」、いわゆる「電卓」が普及してくる。この頃、東芝やパナソニックなど電気メーカーがオフィス用の卓上型電子計算機を数多く開発した。この中に
あって、カシオやシャープが計算器具を急速に小型化して価格を引き下げ、「電卓」を「そろばん」に変えて数計算の主役に引き上げていく。この間、多様な「電卓」が開発されたが、初期の比較的重量のあるものからカードサイズの「電卓」まで、時代の流れにそって、どのように電卓が進化してきたかがよくわかる展示となっている。
♣ 大型電子計算機コンピュータの展開
一方、これに並行して発展していったのがコンピュータであるが、複雑な科学計算、工学計算には大型
のメインフレーム・コ
ンピュータが使われた。初期のコンピュータの展示は物理的スペースの制約で、それほど多くは展示されていなかったが、それでも1950年代の真空管を使ったUnivac コンピュータ、富士通の
FACOMコンピュータも展示されてあった。この時代は真空管が使われており、装置も大型でメモリ能力も現在に比べると格段に低かった。また、資料館には大阪大学で使っていたという機械式では珍しい航空機開発のための積分計算機の復元モデルも展示されていて目を引いた。
♣ 大型コンピュータからパソコンへ
しかし、コンピュータでは、ムーアの法則にもあるICの
展開で、大型からパーソナルコンピュータへの推移は早かったが
、このPC関係の展示は豊富である。IBMの初期PCからアップルのPCモデル、東芝のダイナブックなどが各種陳列されていた。
♣ 日本独自の漢字変換ワープロも登場
一方、日本では、独自スタイルの漢字転換「ワープロ」がタイプラ
イターに
変わる印字機として80年代広く普及した。資料館には、各家電メーカーの製造する各種ワープロモデルが数多く展示されている。筆者も日常的にこれらのモデルを使っていたので非常に懐かしかった。
♣ コンピュータや電子機器の記録メディアの変遷
これらコンピュータに使われた記録メディアの進化を示す展示も
面白かった。パンチカードから磁気テープ、カセットテープ、フロピーディスからメモリーカード、USBメモリなど、同時代の技術変化なので特に親しみが湧くコレクションである。
♣ 音響機器の展示も魅力
このほか、別コーナーには、蓄音機・レコードプレーヤーの時代変化を
示す展示があり、録音機やビデオ、ウォークマンの初期から現在のモデル、iPhoneなども幅広く紹介されている。
♣ 理科大「近代科学資料館」を訪ねてみよう
このように、東京理科大「科学資料館」は、数学や計算機、コンピュータはもちろん、現代生活に必須な情報機器に関する関心のある人々にとって、得がたい経験の得られる展示が豊富にある。今回の訪問は、こういった知識欲を刺激する博物館が身近にあることを改めて知る貴重な経験であった。
なお、博物館では、常設展のほか企画展示として逐次興味のある課題のテーマに取り組んでいる。日本人のみならず外国人にも訪問を進めたい産業博物館である。
You can refer to the Japanese PC by the IPSJ Web
Computer Museum too :
http://museum.ipsj.or.jp/en/index.html