名古屋のノリタケ・ミュージアムを訪ねて

ー ノリタケの近代的陶磁器制作の成り立ちと作品をみる

Noritake- logo-x01 江戸時代以前から日本の陶磁器は西洋への貴重な輸出品の一つで、美術品Noritake- Overview-x02としても珍重される工芸品であった。しかし、西洋で日常的に使われる洋食陶磁器の工業的製作は全く新しい分野で、明治になって初めて手がけられたとされる。この事業を推進したのがノリタケ(旧名・日本陶器)である。このノリタケが、創業の地である名古屋西区に「ノリタケの森」緑地公園を開設した。同社の100周年を記念してのものだった。その公Noritake- Artworks-x09園の中にはノリタケの創業の歴史とその作品群、そして製作過程を展示するミュージアムが設けられている。私も、機会があって今年10月この博物館を訪ねてみた。 博物館では、洋食陶磁器、特にボーンチャイナとその技法、ノリタケの美術陶磁品制作の仕組みと特色、古くからのノリタケ・ブランドの作品群が幅広く展示されている。また、併せてノリタケが洋食器制作をベースに広げてきたセラミック事業の全体も紹介している。世界的高級洋食器メーカーとなったノリタケの沿革、世界の陶磁器産業を見る上でも貴重な博物館であった。

♣ 「ノリタケの森」とノリタケ・ミュージアムの概要

Noritake- logo-x02 「ノリタケの森」は2001年、日本陶器の工場があった名古屋市西区則武Noritake- Overview-x06(ノリタケの企業名はこの創業地にちなんで命名)の跡地に建設された施設。そこには、全体が広い緑地公園のようになっていて、中には、ノリタケの歴史作品、オールド・ノリタケの展示ミュージアム「ノリタケ・ミュージアム」、製造過程を見学できる「クラフトセンター」、ノリタケの歴史と事業分野を紹介するNoritake- Overview-x03「ウェルカム・センター」などが設けられている。また、敷地内には明治期に作られた赤煉瓦の工場建屋と陶磁器を焼成に使った煙突がそのままの残っていて、それぞれが国の近代化産業遺跡に指定されている。 この中のミュージアムの展示を中心に、ノリタケのもつ陶磁器制作の技術と成り立ちを探ってみた。

♣ ノリタケの歴史を語る「ウェルカム・センター」の展示

Noritake- History-x05 ノリタケの森に行くとまず案内されるのが「ウェルカム・センター」。ここにはノリタケの概要を示すビデオコーナーと明治・大正年代Noritake- History-x04の工場の様子が写真入りで紹介されている。その奥に進むと、創業から現在に至るノリタケの発展をビジュアルに展示した「ノリタケ・ヒストリー・テーブル」というコーナーが設けられている。この展示によるノリタケの革新的な事業展開が非常に興味深い。

<ノリタケの創造と展開>

Noritake- History-x03 まず、創業者である森村市左衛門が、1876年、森村組を設立、ニューヨークに支店を設けて日本の美術骨董品、雑貨を輸出する事業を開始。1889年、Noritake- History-x06パリ万博で洋式装飾食器の素晴らしさと商品価値と高さをみて日本での洋式磁器の製作を決意。1904年には大倉孫兵衛、同和親とともに日本陶器(後のノリタケ)を設立して、洋食磁器の製作を目指した。しかし、この過程は容易ではなかったようだ。まず、日本式陶器は日本の伝統工芸品ではあったが、均一な商品を多数工業的に作ることがきわめて難しかった。
Noritake- Illust-x03そして、一般的に洋食器は白い生地に絵付けすることが必須で、生地が純白でないと商Noritake- History-x02品にはならないという特徴もあった。また、洋食のディナーセットは、底が平らでなめらかである必要がある。
この新しい技術開発には、個別工芸品を職人が制作するのとは違った、新たな方式や技術が必要だったようだ。ノリタケでは、ドイツなどに職人技術者を派遣してようやく、1904年白生地の製作にこぎつけることが出来た。そして、1904年に25センチ皿の平盤化に成Noritake- History-x09功、Noritake- History-x101914年、日本発のディナーセット「セダン」を発表。これで、洋食器メーカーとしてのノリタケの基礎が築かれたと言われる。その後、ボーンチャイナの技術にも取り組み、1933年には完成させる。これをきっかけに北米を中心に高級洋食器の販路を広げ、ノリタケの「オールド・チャイナ」の名は世界的にも名を知られるようになる。  これらノリタケの事業展開と研究開発について、センターでは、わかりやすい年譜と写真、陶磁器の実物、人物像などを通して訪問者に詳しく紹介している。

♣ オールドチャイナの美術品展示

Noritake- Illust-x02 ノリタケ・ミュージアムでは、歴代のノリタケが製作してきた見事な高級Noritake- Artworks-x04洋食器が並んで展示されている。これらは「オールド・チャイナ」として知られる作品群である。そこには色彩、衣装、デザインとも見事な豪華なテープル・ディナーセット、花瓶や飾り皿、ポット、コーヒーカップなど美術館のような面もちで展示してあった。ぐるりと見Noritake- Artworks-x06て回るだけでも楽しい。 先ほどふれたノリタケ洋食セット第一号の「セダン」も、記念展示として並んでいる。興味深いのは、作られた年代ごとの作品の変化や進化などである。壁一面に飾られた洋式皿の展示を見てもこれを実感できる。この作品展示は、ミュージアムのハイライトでもある。

 

♣ 製造過程を実感できるクラフトセンター

Noritake- Illust-x09 ノリタケの洋食器、陶磁器がどのようにして出来るのかを体験できるのがクNoritake- Process-x01ラフトセンターである。ここではボーンチャイナで作る洋食皿、陶磁器の置物、人形、飾り造形などの製作過程や作業の様子が直接見られる。一般に、陶磁器の制作は、粘土の生成、成形、乾燥、素焼き、下絵、釉薬、本焼きと進むが、クラフトセンターでは、このうち、石膏で型を作る“原型製作”、粘土の‘泥漿‘を型に流し込む“成形”、素Noritake- Process-x02Noritake- Process-x03焼き(締め焼き)、下絵制作風景などを見学できる。原型製作では、見事な彫像や神話や物語のシーンを描いた作品群の部品、組み立てなどの工程が見られる。しかし、なんといっても圧巻なのは「絵付Noritake- Overview-x05け」であった。職人さんたちによる芸術的な素描や下絵描き、デザイン絵を転写紙に印刷して陶磁器に移す作業、カップのハンドルやお皿の縁に金線を描く“金仕上げ焼成などは、初めて見る光景であった。ノリタケ陶磁器の文化的価値の高さを製作過程見学を通じて改めて再認識した次第であった。

 

♣ 現代のノリタケの事業と感想

Noritake- Artworks-x05 ノリタケは陶磁器メーカーとして発足してから、今日に至るまで幅広く事Noritake- Company-x03業を展開し数多くセラミック分野の企業を育てていたことを改めて確認した。これは前に述べたウェルカム・センターの展示でもよく示されている。まず、1917年には衛生陶器部門を分離し東京陶器(TOTO)を設立、碍子部門を1919年に独立(日本碍子)、戦後では、1967年、日本レジン工業、伊勢電子工業を設立、そのほか、伊万里陶業、広島研磨工業、共立マテリアルなNoritake- Company-x04ども傘下企業としている。いずれもが、食器製造で打ち勝った磁器、研削、研磨、セラミック材料、印刷転写などの技術が生かされている。現在は、さらにハイテック分野の電子回路や歯科医療、太陽光発電膜、セラミックコンデンサーなどに進出し存在感を示している。これは、一階ロビーに各事業部門の製品とともに解説展示してある。 明治時代に、伝統的な陶器作りNoritake- Artworks-x01の枠を越え、製品輸出を目指して新しい工業分野の洋食器事業に進出し、西洋技術を吸収しながら日本的デザインと技能を駆使して世界企業に成長したノリタケの成長は、日本の工業発展の一つの姿であるように思えた。また、工業品と美術工芸を融合させ、日本の伝統産業陶器を新たな形で創出したノリタケの取り組みが印象深かった。機会があったら再度訪ねてみようと思っているところである。

(了)

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