―国宝級の⽇本の美術⼑剣と装備品を豊富に収集する美術博物館―


東京・渋谷に珍しい日本刀の美術博物館があるのを発見した。名前は「刀剣博物館」。日本の誇るユニークな美術文化財また歴史資料としての「日本刀」の価値を顕彰、保存し、公開する博物館である。

昭和43年に「日本美術刀剣保存協会」によって設立されたもの。館内には、見事な「刃文」をもつ国宝級の「日本刀」が数多く展示されており、その黒ずんだ鋭い輝き、奥深い重厚さに魅了される。数百年の時を経た作品も展示されていたが、いささかも古さを感じず圧倒的な作品の見事さが目立つ。刀鍛冶の優れた「匠」としての技量に改めて感心させられる。また、刀身を形作っている刀装具「柄」、「鐔」、「鞘」なども見事で、日本的工芸技術の素晴らしさを体現している。これらは実用性と美的価値を融合させた機能美の粋と感じざるを得ない。

(この「刀剣博物館」は、2018年に両国「安田庭園」の一角移転し新装オープンしている。新施設には未だ訪問していないが近く見学してみたい。)
刀剣博物館案内
http://www.touken.or.jp/museum/
♣ 日本刀の魅力と歴史


日本刀は、江戸期まで日本武士の必須武具であり、身分、身だしなみのシンボルでもあったし、現在においても武術骨董品としての価値も高い。その刀身の鋭い強靱さと繊細な美しさは世界に類をみないと言われる。
しかし、この日本刀製作に当たっては、日本の鍛造技術の優れた技術が反映されており産業遺産としての側面を持っていることを認識する必要がある。明治以降の日本の産業化近代化過程では鉄鋼業の発展が大きな役割を果たしたが、これは積極的に西洋製鉄技術を移入したことによることが大きい。今日、日本の金属加工・鍛造技術は世界有数の地位にあるが、この技術発展には、日本の伝統的鍛造技術「匠」の技が背景にあるといっていいだろう。この粋が、日本刀造りにみられる伝統的製鉄・鍛造技術、刀鍛冶にあると思われる。
♣ 渋谷の「刀剣博物館」の展示

2016年になるが、この「刀剣博物館」を訪ねてみたことがあった。渋谷の一角にあるこの博物館近くには、日本刀の鑑定や取引を行う商店もあって独特の雰囲気がある。博物館の門を開け中に入ると、博物館設立に貢献した人物の二つの銅像があり目を引いた。


玄関を入るとホール内には、日本刀の鉄材となる日本の伝統的製鉄技術「たたら」の製法や、日本刀の製作過程を描く写真パネルが飾られている。初心者には良い解説である。日本刀の展示場は二階にあった。今回は、丁度、企画展「刃文―1000年の移ろい」という特別展示を行っていた。日本刀は、その堅牢さや切れ味、刃先の鋭さに特徴があるが、その刀身にはこれらを際立たせる「刃文」という模様が浮き出る仕組みになっている、この文様は、製作過程で鍛造・熱処理をする過程で生まれるもので、日本刀の美しさを示す美術的要素をなしている。これには製作者の技量は反映されていて、時代時代によってその特徴が異なっている。この「刃文」の移り変わりをたどってみるというのが、この企画展の眼目であった。
♣ 日本刀の製作と技術


日本刀は、「折れず、曲がらず、良く切れる」という三つの条件を追求して作られているといわれる。鋼は、通常、強く硬いという特徴を持っている、しかし、刀の条件である「折れない」を実現するには、炭素量を少なくした「心鉄」を炭素量が高く硬い皮鉄でくるむという複雑な製作過程をとることになり、これが「刀文」に反映されているというわけである。


館内には、見事な「刃文」をもつ国宝級の「日本刀」が 数多く展示されており、その黒ずんだ鋭い輝き、奥深い重厚さに魅了された。百年の時を経た作品も展示されていたが、いささかも古さを感じず圧倒的な作品の見事さが目立った。刀鍛冶の優れた「匠」としての技量に改めて感心させられた。また、刀身を形作っている刀装具「柄」、「鐔」、「鞘」なども見事で、日本的工芸技術の素晴らしさを体現していた。これらは実用性と美的価値を融合させた機能美の粋であると感じる。
♣「匠」の鍛造技術の伝統と現在


これら「匠」の鍛造技術は、実は、日本刀だけではなく、庶民の間でも「打刃物」となって普及し、農具、調理具、装飾品などにも使われて、日本独自の金属加工技術となり、後に各地で「地場産業」を形成してきた。岐阜の「関」刃物、新潟の「燕」・「三条」・「与坂」の金属器具などが代表例であろうか。このように、日本刀で磨かれた金属加工技術は広く地場産業発展にも役だったのである。


また、日本刀の原材料となる鉄を生産する技術「たたら製法」は、現在では古い技術となってしまったが、この高度な製法によって生み出される「玉鋼」なしには「日本刀」は製作できない。また、この製法は、その後日本の製鉄技術にも貢献した産業遺産として注目されるに至っている。ちなみに、伝統の製鉄法と欧米の鉄鋼工業が結びつくことで、強力磁石鋼(KS鋼)や超不変校鋼が日本人技術者によって作り出されたといわれている。
♣ たたら技術を検証する現在のプロジェクト

「たたら」製法は、炉の中に砂鉄と木炭を投入し、風を送って燃焼させ、鉄を作りあげる製鉄技術のことで、これら技術の継承を図るべく、日立金属株式会社は、日本美術刀剣保存協会の依頼を受け、島根県安来地区に「日刃保たたら」プロジェクトを昭和49年に立ち上げ、この古い製法を現在に生かそうとの試みを続けている。また、この関連技術は、日立金属グループの技術者の間でも、工具鋼、耐熱鋼、ステンレス鋼等を総称するブランド「YSSヤスキハガネ」の中にも生かされているといわれる。
○ 最後に

今回の訪問は、「日本刀」の鑑賞を目的とするものではあったが、これら日本刀の製作過程における技術の系譜、「たたら製鉄」といった日本の製鉄の基礎となった伝統技術などが、どのように現在とむつびつきうるかの点でも、非常に勉強になった。日本にいるアジアの留学生達も是非一度訪ねることを期待する施設の一つである。私自身は、遠方ではあるが、日本の製鉄技術のルールである島根県安来の「日刀保たたら」を是非見学したいと思っているところである。
(了)
参考した資料:
- http://d.hatena.ne.jp/settu-jp/20120217/1329439894 神話としての日本刀 鍛冶と鋼
- http://tojiro.net/jp/guide/material_japanese_sword.htm 日本刀と包丁
- https://www.facebook.com/techon.fb/videos/864297163642362/
- http://www.film.hitachi.jp/movie/movie739.html
- 図解・日本の刀剣 久保恭子 (東京美術出版) 2015
- The Art of the Japanese Sword; as thought by the experts, by K.Kawachi & M.Manabe, Ribun Shuppan, 2003
- ビジュアル版 日本の技術100年 (2) 製鉄・金属, (筑摩書房1988)