日本銀行「貨幣博物館」を訪ねて

ーお金の歴史と社会的役割を探るー

貨幣博物館とは

JOB- Illust x10 東京・日本橋にある日本銀行「貨幣博物館」を久しぶりに訪ねてみた。この博BOP- Entrance物館は、日本銀行金融研究所が歴代集めてきた「貨幣」のコレクションを歴史解説と共に一般に公開しているもの。東京の博物館の中でも人気のある施設で、訪問時にも沢山の学校の生徒や一般見学者で賑わっていた。博物館は1982年に設立されたのち1985年に開館され、その後、2015年に大幅なリニューアルを施し現在に至っている。

JOB- coin medieval x02 館内には古代から現在に至るまでの日本の貨幣の歴史(古代から近現代まで)、世界の貨幣・紙幣を実物と複製、画像などで詳しく紹介している。また、「さまざまな貨幣」および「テーマ別展示コーナー」などを設け、貨幣や硬貨の展示だけでなく、日本の金融制度の流れも図表、文書、パネルで詳しく解説している。訪問は僅か2時間ほどだったが、お金」が歴史と市民社会の中でどのような役割を果たしてきているかがよく理解できた。

以下は、この訪問したときの印象を記したもの。館内の展示は日本語のみでなく英文、その他で言語でも解説が付されており、外国人の訪問客にもわかりやすい。

貨幣博物館ホームページ https://www.imes.boj.or.jp/cm/

 ♣ 館内の展示の模様

JOB- coin medieval x01  館内は、五つの展示ゾーンに分かれており、第一が「古代」の貨幣、第二が「中世」の貨幣、第三が「近世」の貨幣、第四が「近代」の貨幣と、貨幣の発BOP- Entrance x02展の成り立ちや歴史を展示するコーナーとなっている。それぞれ、“金属のお金のはじまり”、“海を越えてきたお金”、“ゆるやかなお金の統一”、“「円」と日銀”、とテーマが定められていて、どのように「お金」と商業・経済が共に発展してきたかが展示の中で示されている。また、第五ゾーンでは、現在準備中ではあるが「トJOB- JOB x04ピック展示」として、今年10月から「19世紀日本の風景:錦絵にみる経済と世相 -米国FRB 美術品展示会より-」を開催する予定であるという。これら展示は、日本銀行が収集してきた日本と海外の貨幣類約4000点と日本銀行が収集した貨幣4000点と古貨幣の収集家・田中啓文氏の「銭幣館」コレクションが基となっている、という話である。

 

 ♣ 「お金」のはじめー古代の貨幣―の展示

JOB- Illust x17 日本の「お金」のはじまりは7世紀にさかのぼるといわれている。中国の制度JOB- coin ancient x03を取り入れ日本で国家制度が始まった「律令制時代」に初期的な「市場」が形成され物品の交換手段、国の事業に必要な調達手段としてはじめて貨幣が用いられるようになったという。博物館によれば、このため最初に発行されたのは「無紋銀銭」だという。これが西日本を中心に多JOB- coin ancient x01数発掘されている。そして中国の「開元通宝」をモデルとした本格貨幣として「和同開珎」(AD708)が発行された。博物館では、これら日本の通貨の起源となる貴重な通貨が最初の展示となっている。この貨幣は一定程度通用したようであるが、通貨の品質が低下して958年「乾元大宝」を最後として発行されなくなった。

JOB- coin medieval x06これを境に通貨は発行されなくなり、交換手段としては米や絹が使われる時代となった。しかし、12世紀頃になJOB- Market Medieval x01ると生産活動、商品流通が活発になり、商取引のために銭貨の需要が高まってくる。このため利用されたのが中国の通貨、特に宋の銭貨であった。これ以降、14世紀頃まで貨幣としては中国の銭貨が多く使われ商品経済を支えることになった。この数多く輸入された銭貨は、商品交換のみでなく蓄財の手段にも使われていたという。

 

 ♣ 中世の貨幣流通とお金

JOB- coin medieval x04 しかし、16世紀頃になると、中国の政情などからの日本への銭貨の供給が細り流JOB- gold mine x01通量が減少してくる。この結果、米を決済手段とする交換が一時増えてくるが、特筆すべきは、この時代、各地で鉱山開発が進み、「石州銀」や「甲州金」などにみられるように各地の「戦国大名」たちによる領国貨幣が造られていったことである。そして、日本では一種の鉱山開発技術革新が勃興JOB- coin medieval x02し、大量の金属、特に、金、銀、銅が産出されるようになったという。また、これら貴重金属からつくられる貨幣が各地の大名の富の形成に役立ち、経済力、軍事力の強化と結びついていった。展示棚には、この時代の状況を示す金貨、銀貨が数多く陳列されており、その豊富さに圧倒される。なかでも秀吉時代の「天正大判金貨」「譲葉金貨」、「蛭藻金貨」などは目を引く展示である。マルコポーロの時代に、「金の国」と表された日本の当時の姿を彷彿とさせる。

 

 ♣   江戸時代の貨幣経済のはじまり

JOB- coin Edo x02 江戸時代になると、商品経済の振興と交易の発展を促すため、幕府JOB- Illust x15は貨幣の基準を定めると共に自ら金貨銀貨の製造を管理し、貨幣単位の統一を図っていく。また、「寛永通宝」を発行して物流の円滑化をはかる。このとき定められた交換レートは、金貨一両=銀50匁=銭貨4000文であったという。そして、金貨は額面を記した「計数貨幣」、銀JOB- coin Edo x04貨は重さで量る「秤量貨幣」、銀貨は一枚一文と決められた。これにより、通貨の交換が合理化され商品流通が以前にも増して盛んになった。また、幕府や藩の収入源である米は全国的な流通網にのって、金貨の「両」、銀貨の「匁」単位の貨幣に返還され、江戸や大阪などの大都市で商品取引されるシJOB- Market Flow Edol x01ステムができあがることになる。この時に「貨幣商JOB- Illust x12人」として活躍したのが「両替屋」である。彼らは、貨幣交換をすると共に金融業も営み、江戸時代の商品経済を支えた。かくして、この両替屋を軸とした“年貢米→米取引→貨幣化→藩・幕府収入→消費”の連環は、江戸時代日本の基本的な経済システムとなっていく。

博物館展示では、このシステムと機能について、実物の金貨、銀貨、貨幣の計量道具や商品流通の流れ図などを使い詳しく解説していて非常に勉強になる。

 

♣  江戸時代の消費経済とお金

JOB- Illust x14  また、この江戸時代の貨幣商人、大店商店、市場、庶民の買い物風景などを描いた多数の錦絵や貨幣のサンプル、道具類などが棚いっぱいに展示されていて、当時JOB- Market Edo x03の商品経済の姿と「お金」の使われ方がよく示されている。誠に興味深い展示である。

例えば、日本橋にあった「越後屋呉服店」の賑わいの様子、両替屋の商売風景、庶民の買い物風景、富くじが当たり喜ぶ市民など、いずれも生き生きと当時の「お金」を使った江戸の風景が描かれている。

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また、幕府発行の貨幣のほか、地方ではそれぞれの領国内で通用する「藩札」、民間で発行JOB- notes Edo x01する一種の為替「羽書」も出現し、貨幣発行の多様化も進み、商品流通が活発になっている時代でもあったことが、展示で見て取れる。

さらに展示では、金貨や銀貨、銭貨の製造工程の説明もあり興味深い。

 

♣  幕末の貿易体制の混迷と通貨価値・物価

JOB- Illust x08  19世紀中期、江戸幕府が、それまでの鎖国をやめ「開港」を決定したJOB- Market Edo x08頃から貨幣体制も大きな変化を迎える。特に、開港によって貿易決済が「金」で行われたことから、海外銀との価格差から金が流失し、一般貨幣の価値下落が起こり、当時の政治の混乱も手伝って幕末にかけてJOB- Market Edo x09激しい物価上昇、インフレを引き起こしている。

これは金貨の改鋳で一応金の流失はとまったが、江戸幕府と「お金」に対する信頼も薄れ、開港の是非、幕府と朝廷、雄藩を巡るJOB- Market Edo x10

政治対立が鮮明になるなかで、江戸幕府は崩壊し明治新政府の誕生となっていく。この状況を、展示のなかでは「お金の価値」を巡る視点から解説していて非常に興味深い。

 

♣  明治通貨新体制への移行

JOB- notes Meiji x01 こういったなかで、明治政府は、政権確立後すぐ1981年(明治4年)に「新貨JOB- coin Meiji x01幣条例」を制定、全国統一の「円」を導入することを決定した。そして新しい金貨、銀貨、銅貨を発行する。また、兌換を前提とした政府「紙幣」も発行している。

この第一号の紙幣が欧米の紙幣の形式を取り入れた「神功皇后札」(1881)であっJOB- notes Meiji x02た。博物館のメイン展示物の一つである。また、明治政府JOB- Market Meiji x01は新しい国立銀行、私立銀行の設立を促し、国立銀行による「国立銀行紙幣」の発行も許可した(1872)。

しかし、明治期銀行券が増発され貨幣価値が急激にJOB- notes Meiji x04下がったことから1882年には「日本銀行」が設立され、一元的に紙幣「日本銀行券」が発行する新しい貨幣制度が開始された。とられた制度は「金本位制」で国際的な信用を同時に持つものであった。この下で次々と紙幣が発行されるが、このサンプルが博物館には豊富に展示されており、時代背景をもったデザインが面白い。

♣  現代に至る貨幣の動向

JOB- Illust x07  時代は巡り日本は明治から大正、昭和に移り、貨幣制度と金融は広範な発展JOB- notes Current x03を遂げるが、昭和期の1930年代に世界恐慌が起こり日本の貨幣制度も大きな変化を遂げる。世界的に「金本位制」が崩れるなか、日本も金貨兌換を停止、金と発行紙幣の交換を取りやめる措置をとった。そして、その後、様々な経過を経るが、1942年に「管理通貨制」採用して通貨JOB- notes Current x01価値の維持を図ることとなっている。この間の経済、金融の状況は、展示の中で貨幣の例示と共に詳しく解説されている。JOB- coin Current x01

しかし、やがて日本は太平洋戦争に突入、戦時下では厳しい金融統制が行われ、これに伴う貨幣発行の制限、物価の統制の時代に入る。この間に発行された紙幣や硬貨も興味深い。ただ、なんといっても興味深いものは、敗戦後の極端なインフレ進行に伴う通貨金融措置であった。そこでは日銀・政府JOB- notes Current x02による流通貨幣の回収、「新円」への切り替え措置、銀行取引制限などがとられ、ようやく安定が確保される。

ここから現在も通用している様々な額面の紙幣発行に時代となる。博物館では、この戦後発行された紙幣、硬貨をデザインの変遷や通貨発行動向などと共に展示している。なかでも偽造防止の手段や技術の紹介があって興味深い。

♣   見学を終えて

JOB- Illust x10 お金の歴史に関する大変貴重な博物館であるとの印象を受けた。古代の貨幣の姿や昔の商取引、金融やお金を巡る国際的歴史的なつながりが展示の中にみごとJOB- JOB x03に示されている。この博物館は1982年に開館したものであるが、2015年に大幅にリニューアルして、日本の貨幣の歩みがわかりやすく展示されるようになった。特に、ほかではなかなか見られない金の大判・小判、古代の古銭などは貴重である。また、昔の金貨の作成工程なども解説されていて興味深かった。博物館内の展示には外国語の説明付されており外国人訪問者も多い。私が訪ねたときにも沢山の外国人が興味深そうに展示を眺めている姿が見えた。日本のお金や金融の歴史を見るには最適の博物館である。

(了)

参考文献:

  • 貨幣博物館パンフレット(日・英)
  • 貨幣博物館展示図録
  • 貨幣博物館-Wikipedia
  • 日本貨幣史(貨幣博物館)
  • 銭幣館コレクションと貨幣博物館の設立(日本銀行金融研究所)
  • お金の話あれこれ(日本銀行)
  • 図説日本貨幣史(日本学術協会編)

 

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