釜石の「鉄の歴史館」の訪問で知る鉄の産業遺産

    ―⽇本の製鉄のルーツ釜⽯の鉄造りを語る魅力の歴史館ー

Iron Museum- logo x1「橋野鉄鉱山」訪問の後、釜石市内にある「鉄の歴史館」を訪ねた。博物館には、iron Museum - Outlook x02橋野・大橋の高炉跡の詳しい解説と共に、釜石の製鉄の歴史を幅広く紹介する作品が豊富に展示されている。古来の伝統的製鉄の姿から江戸時代末期にかけての西洋式近代高炉の建設、この技術開発Iron Museum- Oshima x01に貢献した大島高任の事跡、本格的に製鉄業に進化した釜石田中製鉄の姿、その後の新日本製鉄釜石事業所の展開などの歴史を示す豊富なドキュメント、写真、実物大モデルなどを展示する本格的な「鉄の歴史館」である。短い時間の訪問であったが、釜石の製鉄の歴史、ひいては日本の製鉄の歴史について学ぶことが多かった。Iron Museum- outlook x02

また、帰路に「釜石郷土館」にも立ち寄ったが、ここでも戦時中を含む釜石製鉄所の波乱に満ちた歴史をはじめて知ることになった。前の記録「橋野鉄鉱山を訪ねる」とともに見ていただければ幸いである。(HP https://igsforum.com/Kamaishi%20Hashino-J)

○釜石「鉄の歴史館」所在地:〒026-0002 岩手県釜石市大平町3丁目12番7号釜石
HP: http://www.city.kamaishi.iwate.jp/tanoshimu/spot/detail/1191193_2452.html
○釜石市郷土資料館所在地:〒026-0031 岩手県釜石市鈴子町15番2号
HP: http://www.city.kamaishi.iwate.jp/mobile/kyoudo/

♣「鉄の歴史館」の展示されていたもの

Iron Museum- illust x05 歴史館は、1985)年7月にオープンし、1994年に施設の拡張をした後、2009年5月にIron Museum- Hashino x02一部をリニューアルして公開し現在に至っている。展示はいくつかのブロックに分かれていて、主には「鉄と暮らし」、「鉄文化の黎明」、「近代製鉄の歴史」、Iron Museum- Hashino x01「総合演出シアター」、「製鉄産業と釜石」などとなっている。このうち、シアター「鉄を語る炎の世紀」は圧巻である。そこには実物大の橋野第三高炉設備の復元モデルが稼働中の姿を再現し、付設の映像スクリーンで高Iron Museum- Furnace x06炉の仕組みとの歴史を併せて開設している。 また、「近代製鉄Iron Museum- Oshima x02.JPGの発展」コーナーでは、近代製鉄の父と言われる大島高任の関連資料、大橋・橋野高炉など釜石地域に広がる鉄の歴史遺跡の紹介、「製鉄産業と釜石」では、釜石製鉄所の創設やその後の発展を示す記録や写真などが展示されている。それぞれのコーナーの展示は以下のようであった。

♣ 「鉄が語る”炎の世紀シアター”」の展示コーナー

  シアターに入ると大きなスクリーンと共に見られるのが橋野第三高炉の実物大モデルであIron Museum- Furnace x01Iron Museum- Furnace x02る。高炉内は稼働中の高熱溶鉄を示す真っ赤な炎が演出されており、上部には櫓が組まれていて、そこから鉄鉱石と木炭が投入されていた様子が再現されている。また、サイドには、大きなフイゴが組まれていて水車の回転で強い送風が送り、高熱燃焼が行われている様子が示さIron Museum- Fuigo x01れている。機械技術が発展していない時代、文献だけでこれだけの大がかりで複雑な機構を、石組みと木工技術で組み上げた技術の高さを実感できる内容である。このコーナーには、また、橋野と大橋の鉄鉱山の立体地形図が展示されており、これらの遺跡群が当時どのような姿で運営されていたかも観察できる。

♣ 「釜石の近代製鉄の発展」のコーナー

このコーナー展示のメインの一つは大島高任の紹介である。大島の生い立ちから高炉建設にIron Museum- illust x06Iron Museum- Tanak works x01関わ経緯がドキュメント、写真などで詳しく示Hashino- person x02されている。近代製鉄業の成り立ちに彼がどのように貢献してきたかを示す歴史的な展示であった。また、ここには、大橋、橋野、栗林など釜石地域に広がった初期の鉄生産現場の様子が、Iron Museum- Furnace x05解説パネル、歴史絵図なIron Museum- Tanaka w x04JPGどで示されていて興味深い。この一連の展示を見ることで、日本の近代製鉄がどのように、この地方で育ち発展してきたかを知ることが出来る。見応えのある展示であると思えた。特に、橋野鉄鉱山を見学してきた後だったので、橋野高炉遺跡自体の歴史的位置づけもよく分かった。

♣ 「製鉄産業と釜石」のコーナー

Iron Museum- Govt works x01このコーナーでは、製鉄業と釜石の関わりが詳しく語られている。特に、Iron Museum- Tanaka w x06JPG明治政府によって主導された「官営釜石製鉄所」の設立経過、ここでの技術的挑戦と失敗、そこから学んだ技術の新たな展開などを、これに関わった技術者・科学者の人物像と共に紹介されているのが興味深い。また、この経験を踏まえて再出発した「釜石田中製鉄所」の展開、この挑戦と発展のIron Museum- Tanaka w x07JPG経緯や歴史に関する展示も、初期の日本の製鉄業発展の軌跡を見る上で重要と考えられた。さらに、この初期の田中製鉄所事業所跡が、歴史遺産「田中鉱山事務所」とIron Museum- Tanaka w x09JPGして残っていることも忘れてはならないだろう。

<釜石製鉄から日本製鉄へ>

田中製鉄所は、その後、経営が三井財閥に移り、戦時中の日本製鉄へ、そして戦後富士製鉄Iron Museum- Tanaka w x02JPGの傘下になり、現日鉄住金の釜石製鉄所となって現在に至っている。しかし、明治・大正期の鉄鋼発展による人口増加とIron Museum- Current x01地域経済の発展があるなか、1933年三陸沖地震による津波被害、太平洋戦争末期の連合軍による艦砲射撃による設備全壊、そして、今回の東日本大震災の被害など、多難な運命に翻弄されてきたことも事実である。このことも展示の中でよく示されていえ、鉄の歴史と共に地域社会の変化にも注目できる展示コーナーである。

♣ 「鉄と暮らし」と「鉄文化の黎明」のコーナー

日本のおける古代の鉄文化の受容と歴史をビジュアルに描く展示がここでは見られる。古いIron Museum- Tatara x01時代の製鉄方法やこれらが社会の中でどのように使われてきたのわかりやIron Museum- Tatara x02すい展示である。さらに現代における製鉄技術の紹介と共に、各種鉄鋼、鉄製品、鉄合金の性質、用途などの解説もある。暮らしの中で鉄がどのように使われているかわかる貴重な展示である(「私たちの暮らしと鉄」展示)。また、「鉄と遊ぶ」といったゾーンもあっIron Museum- product x01Iron Museum- play g x01Iron Museum- play g x02.JPGて、鉄塊を手にとったり、鉄製品を試したりする子供向けの場所もあって、訪問者も楽しく鉄とふれあう場を提供している。

♣ 「歴史館」の見学を終えて

Iron Museum- logo x1 約2時間ばかりの歴史館訪問であったが、釜石における製鉄の歴史、起源、そしてIron Museum- Tanaka w x01製鉄技術の発展に貢献した人物像など、いままで余り知らなかった知識に触れることができて満足であった。特に、「田中製鉄」のコーナーでは、前近代の製鉄産業技術から明治後期の本格的製鉄産業構築に向かうことになる経過、八幡製鉄の技術開発につながる重要な役割などを歴史から学ぶことがIron Museum- kyodokan x02出来て新鮮であった。また、橋野高炉の復元模型は、橋野鉄鉱山を訪問した直後だったので、炉内の構造の特色や技術的工夫が分かりIron Museum- Tsunami x01非常に参考になった。また、「鉄の歴史館」の訪問の後、釜石の「郷土資料館」を訪ねたが、そこで見たものは、釜石の鉄と歩んだ社会の歴史と大きな災害に見回られながらも力強く復興と発展に向かって歩んでいく姿であった。

♣ あとがきと釜石の復興への歩み

Iron Museum- illust x01

「鉄の歴史館」訪問の後、時間があったので「釜石市郷土館」のも立ち寄ったが、こちらのIron Museum- City M x02方も魅力的だった。釜石地域の古くからの生活文化の紹介のほか、鉄鋼の町として成長した釜石の姿、そして、釜石製鉄所が自然災害や戦火によって大きなダメージを受けつつも、日本の製鉄業の一角をなして重要な役割を果たしてきたがことが展示で示されていた。
特に、釜石を含む三陸の各地は東日本大震災、特に津Iron Museum- Tsunami x02Iron Museum- Tsunami x04波によって甚大な被害を受け、釜石の各地に大きな傷跡を残したが、復興に向けて釜石地域が大きく動き始めていることを知り勇気づけられた。特に、釜石で開催するラグビーワールドカップ開催に向けて進む推進地域活動は、そのシンボル的な役割を果たしている。 釜石は、首都圏からはやや遠いが、機会があったらまた訪ねて見たいものだと思っている。その時は、復興を終え新しく躍進する釜石の姿を確認したいものだ。

(了)

Reference:

  • 釜石の歴史(釜石市ホームページ)http://www.city.kamaishi.iwate.jp/
  • http://www.japansmeijiindustrialrevolution.com/site/kamaishi/component.html
  • 鉄の歴史館パンフレット(Iron and Steel History Museum)
  • 釜石郷土博物館案内パンフレット
  • 橋野鉄鉱山―橋野高炉跡及び関連遺跡―(釜石市世界遺産登録推進委員会作成)
  • 釜石の産業遺産と大島高任(小野崎敏氏講演会資料-東京産業考古学会03)
  • 大橋高炉跡・釜石鉱山・旧釜石鉱山事務所パンフレット(釜石市教育委員会作成)
  • 金属の文化史―産業考古学シリーズー(黑岩俊郎編)アグネ刊
  • ラグビーワールドカップ2019推進課ホームページhttp://www.pref.iwate.jp/soshiki/52683/052785.html