―日本のカメラの魅力と発展史を物語る豊富な展示ー
日本のカメラ製品は光学精密機器として高い技術力を誇り、現在、
世界の中でも最も高い評価とシェアを維持しています。キャノン、ニコン、コニカ、オリンパス、リコーなど日本の光学メーカーは、これらの技術開発と製品化で中心的な役割を果たしてきた。この技術開発の経過を知りたいと、東京・半蔵門に日本カメラ博物館を訪ねてみた。以下は、この訪問記録です。
日本カメラ博物館
〒102-0082 東京都千代田区一番町25 JCII一番町ビル B1
JCII カメラ博物館のホームページ:http://www.jcii-cameramuseum.jp/
はじめに
訪問したときは、丁度、有力光学メーカーによる「ザ・フラッグシップ・カメラ展」特別展が開かれていて、日本のカメラメーカーが歴代に開発した代表的カメラの全容がみられた。また、皇居・千鳥ヶ淵の桜が満開に
なっており印象的であった。
前述のように、 日本のカメラ製品は光学精密機器として高い技術力を誇りっているが、これら、カメラで培われた光学精密加工技術は、その後、メーカーの手で事務機器や情報機器、医療機器分野の製品開発にも生かされてきていると思われる。また、カメラ製品は、近年のデジタル技術の進展と結びついて、デジカメ、デジタルビデオ、スマホなど日常生活の中にに映像文化の浸透をもたらしている。この基礎となったのは、カメラ製作で培われた光学技術であったと思われる。今回の訪問で日本のカメラメーカーが歴代に開発した代表的カメラの全容がみられたのはラッキーであった。
♣ カメラ博物館の概要
この「日本カメラ博物館」は、1989年に、日本カメラ財団が運営する産業博物館である。日本のカメラの発展史を物語る各種カメラや内外の珍しいカメラ、最新のカメラ製品のほかカメラ技術の発展を展示するコーナーがあり訪問
者を歓迎している。館内には国内外の貴重なカメラ一万台を所蔵し、順次展示しているという。 このうち「歴史的カメラ」「最近機種のカメラ」などが常設展示として約300点がフロアーに展示してあった。 そのほか、特別企画展示として、日本の初期のカメラ、秘蔵のクラシックカメラ、時代と共に生きるカメラ、デジタル・カメラ現在に至る軌跡、時代の証人報道写真機材展、などを随時開催していて、これらの図録も手に入る。ライブラリーも併設されていて写真のことを知りたい訪問者には便利である。
♣ 魅力的なカメラの歴史解説コーナー
館内の歴史コーナーには、カメラの語源となった “Camera-obscura” の解説、世界で初めて写真が撮られたときの記録のほか、日本でとられた最も古い写真映像などが展示されている。このうち、最も目を引くのは、1839年に写真機として、フランスで最初に発売された“ジル
ー・タゲレオ・カメラ”の展示である。世界のカメラ史をみる上で貴重な製品で世界に数台しかないものの一つといわれる。
♣ 日本のカメラメーカーの展開
日本のカメラ製品としては、写真機の先駆メ
ーカでであった小西本店(現在のコニカ・ミノルタ)が作った1903年の「チェリー手提暗函」、戦後、フラッシュを内蔵した「ピッカリコニカ」、世界初のオートフォーカス機構を採用した「ジャスピンコニカ」などが展示されている。また、日本光学の日本初の一眼レフカメラ「アサヒフレックスI」やロングセラー機となった“ペンタックス”が知られる。
ちなみに、日本のカメラをリードした日本光学は2002年にアサヒペンタックスと名を変え、2011年にはリコーと合併した。この関係もあり、「アサヒペンタックス博物館」が多くの名品を集め展示していたが1989年に閉鎖し、多くの展示品が日本カメラ博物館に移管している。
♣ 日本のフラッグシップ・カメラの展示
カメラ博物館では、訪問時に、特別展「ザ・フラグマンシップ・カメ
ラ」展を実施していて、日本の代表的カメラを、年次別に名品類として紹介していた。日本の光学カメラの技術背景や歴史推移がよくわかる構成となっている。
このコレクションは必見である。
♣ キャノンの歴史を示すカメラのコレクション
一眼レフカメラで知られるキャノンは1934年試作機「カンノン」を発表、続いて「ハンザキャノン」、1959年にはキャノン最初の一眼レフ「フレックス」を発表、カメラメーカーとして地歩を築いている。1987年には世界初の電子マウント方式を採用し、完全電子制御化を実現したAF一眼レフカメラ「EOS」が誕生している。
♣ ニコンの歴史を示すカメラのコレクション
1917年に誕生した日本光学工業(現ニコン)は、1950年「ニコンS」を発売。1959年ライカ判一眼レフカメラ「ニコンF」を発売一躍高級カメラメーカーとし
て知られるようになった。2001年には高級モデル「ニコンFM3A」を発売している。2015年には「ニコン・ミュージアム」を開設している。
♣ オリンパスの歴史を示すカメラのコレクション
医療光学機器で知られるオリンパスも、オリンパスシックス(1940年)を発表、カメラ業界に名を連ねた。その後「オリンパス35」、1960年代には「オリンパスペン」などのシリーズを発売している。一方、フイルムメーカであるフジは、ライカ判コンパクトカメラ「フジカ35M」などを発売すると共に、80年代にはレンズ付きフィルム(使い捨てカメラ)「写ルンで
す」などを発表して独自領域を切り開き、カメラの大衆化をリードした。
これらは展示をみることで、日本の光学カメラの歴史推移がよくわかる。
♣ デジタル技術の導入とインスタントカメラがもたらした技術変化
しかし、光学カメラの展開と共に、1990年代にはいるとデジタル技術を取り入れた様々な写真器具が市場に展開する。一つの流れは、デジタル・カメラ、いわゆる「デジカメ」である。従来の光学機器メーカーのほかに、家電メーカーであったソニ
ー、パナソニック、カシオ、シャープなどが各種のデジカメを発表し、多彩なカメラ市場競争を展開する。これらの様子は、カメラ博物館の各種展示でもよくわかる。また、撮影即写真焼き
付けのインスタント・カメラ「ポラロイド」も登場して人気を博した。これは米国ポラロイド社やコダックなど欧米メーカーが市場をリードした。日本では、ヤシカや富士フイルムが特許を購入して生産し、幅広く証明写真などに利用されている。
♣ 情報機器と結合して進んだ動画の展開
さらに、動画分野でもデジタル技術は新たな展開を見せる。従来の8ミリ・ビデオ機器からハードディスやSDメモリを記録メディアに使った
ビデオカメラに移り、従来のカメラと融合したものも一般化する。その製品群もカメラ博物館に展示されていて、その技術推移がよくわかる。
♣ 人々の映像文化の変化を写すカメラ博物館の魅力
カメラ博物館の欧米メーカーによる歴史的カメラのコレクションも充実している。18世紀以来ドイツやアメリカで技術開発されたカメラの名
品も数多い。1888年に発売されたコダック社の最初の固定焦点レンズ箱型カメラ「コダックNo1ブローニーカメラ」、1929年にドイツでフランケ&ハイデッケ(現ローライ)から発売された二眼レフカメラ、写真プロの間で一世を風靡したドイツの「ライカ」シリーズ、などがある。
この博物館では、上記のように日本のカメラの発展史を系統的に展示し、世界中の珍しいカメラを展示すると共に、日本や世界の光学技術の展開やカメラの原理を紹介するコーナーも充実している。日本の産業発展を確認するためにも、是非訪問を推奨したい産業博物館の一つである。