―長い歴史を持つ商用車専業メーカーの歴史と製作技術を記す展示が豊富ー
先回、日野自動車の博物館「日野プラザ」を紹介したが、今回は、日野
と肩を並べる日本の商用車メーカー・いすゞの施設が藤沢にあるというので訪ねてみた。 「いすゞプラザ」という名で2017年にオープンしたばかりである。非常によく整った施設で、いすゞの最新機能を備えたトラックやバスを展示するほか、いすゞ自動車の歴史、歴代のエンジン、トラックな
ど商用車の製作過程が技術解説を踏まえ細かく紹介されている。日本の自動車産業をみる上で非常に参考になるミュージアムと思えた。
展示では、まず、いすゞの歴史解説からはじまり、いすゞが開発した歴代のディーゼルエンジン、これまで製作してきたバストラックの各種モデル、最新の大型車両のトラック、バスを紹介紹介した後、トラックの構造や仕組みの解説、図式された製作過程の例示、ミニチュアモデルによるトラック製作の再現がなされている。最後には、グローバルに展開するいすゞの将来像が示される構成となっている。この中で、特徴的なのは、古い歴史的なトラックや各種車両が、現在も稼働可能なレストア状態で保全・陳列されていたことである。また、トラックやバスが現代社会の中でどのように活躍しているかを再現する大型の動くジオラマが設置されていて
いるのも魅力一つとなっている。
以下に、展示に示されたいすゞの沿革と発展をみていくとともに、展示の流れに沿って、いすゞのトラック開発の歴史と技術、最近の取り組み、そして、ミュージアムの特徴などについてまとめてみたい。
○いすゞプラザ 〒252-0881神奈川県藤沢市土棚8
https://www.isuzu.co.jp/plaza/index.html
♣ 展示にみるいすゞ自動車の創業の歴史と発展の姿
いすゞ自動車の創立は1916年となっている。しかし、その源流は、江戸幕府が設立し明治政府の手に移された横須賀造船所の機械製作部門であったとい
う。明治になって、この造船所を平野富二が買い取り、石川島造船所(現在のIHI)を創立したことが今日のいすゞを生むきっかけになった。この石川島造船が、1916年、将来の自動車需要を見込んで自動車生産を目指して動き始めたことから、同年が「いすゞ自動車」の創立年とされたのである。 その後石川島播磨重工業となった同社は、社内に「自動車部」、そして独立して石川島自動車製造所を設立して、1920年代、英国ウーズレー提携して自動車生産を
開始する。
また、同社は、生産体制を強化するため、当時、日産の前身で自動車生産を始めていた「ダット自動車製造」と合併し、名前も「自動車工業」となった(1933年)。この経過はやや複雑であるが、館内ロビーにいすゞの社歴としてチャートで記されている。ちなみに、石川島造船所時代に生産された「ウーズレーA4型国産第一号車」の実物が、いすゞプラザのモニュメントとしてメインロビーの中心に現物展示されている。また、歴史コーナーには1929年生産の「スミダM型バス」の現物複製もみられ、当時の自動車生産の姿がうかがえる。
一方、いすゞが独自で国産トラックを生産したのは1938年(TX40型トラック)、これに先立って、同社はディーゼルエンジンを開発しトラック製造に使用している。このようにして、日本でのディーゼルエンジンの先駆者となったいすゞは、1941年には、「ディーゼル自動車工業」と名を変えて各種の自動車生産に乗り出している。そして、戦時を経ていすゞも新たな展開を示すことになる。
♣ 戦後のいすゞ自動車の生産モデルと歴史展示
戦後になると、同社は「いすゞ自動車(株)」となり、大型ディーゼル車両のトラック、バス生産を積極化するとともに、乗用車生産も
手がけるようになる。このとき生産された乗用車が館内に展示されている(いすゞベレル、1960年代のディーゼルエンジン乗用車)。しかし、その後、1980年年代には乗用車生産は中止し、トラック、バスの生産に特化し商用車専業メーカーとして活躍し今日に至っている。こういった中で生産された車には、以下のものがあり、館内の歴史コーナーに時代を追って展示されているので参考になる。
まず、トラック部門では、1946年のいすゞTX80トラック初め、エルフ(1959-)、フォワード(1970-)、大型トラック・ギカ(1987-)などが開発された。また、それぞれがモデルチェンジされ、現在の最新モデルに変化している。 バス部門では、早くも1948年にBX91型バスが生産され、1996年からはガーラ・シリーズのバス、2000年にはエルガ・シリーズバスがそれぞれ開発されている。展示場では、これらの実物車両を実際にみること
が
出来るほか、歴代車両すべてのミニチュアモデルが壁面の年表とともにケースに納められて展示してある。これらによ
り、シンプルなトラック、バスから、より高度で大型の車へ、また、中小型車両もより高性能の生産モデルへと技術進化していることが確認できるだろう。
♣ いすゞのディーゼルエンジンの開発とトラック製作の特徴
いすゞは、当初からディーゼルエンジンの開発技術に優位があり、これをトラック、バス、また、乗用車に利用することで発展してきて
いる。このため、館内には、いすゞの開発した数多くの実物エンジンが、その技術的背景とともに展示されている。例えば、中型トラック・エルフなどに搭載されたH系エンジン、1970年代から大型トラックに使用されたP系エンジン、90年代からのT系エンジンなどである。それぞれの活用車両とともにエンジンの性能が掲示されている。少し専門的になるがいすゞの開発したエンジンの特徴と性能が確認できるだろう。
♣ 展示に示されたトラックの仕組みとその製造過程
この博物館の特徴の一つは、いすゞトラックの製造過程がフローチャ
ートと実物で詳しく解説展示してあることである。実際に、フローチャートに沿って歩いてみると、乗用車とは違ったトラックの設計コンセプト、製造過程、商用車の機能と特徴がビジュアルに確認できる。また、完成した中型トラックの側面カットモデルが展示されていて、普段見ることの出来ない内部
構造などがよくわかる。製造過程では、ミニチュアモデルが部品の製作から組付け、車両組立、検査、出荷までの過程を再現していて、トラックがどのように工場で生産されているのかが観察できる。こお博物館ならではの工夫であると思えた。
♣ ミュージアムの特徴とジオラマ展示の魅力
この博物館の魅力の一つは、日本最大級のスペースを使った動くジオラマ展示である。大都会にみえる実際の街を再現し、そこにミニチュアカーを自動で走らせ、トラックやバス、消防車、配送車がどのような形で物流と人流を支えているかを、朝、昼、夜のそれぞ
れの情景で表現するという優れものである。音声で解説も加えられジオラマ情景の躍動感と美しさに魅了される。私が訪問したときも、タイの研修生らしき集団が歓声をあげて見物していた。単に技術的な展示だけでなく、エンターテイメントの要素も取り入れた新しい技術博物館の姿を見る思いであった。
♦ 最後に一言
今回、日野プラザに続いていすゞのトラック博物館を見学することで、乗用車とは違った商用車の技術コンセプト、車両開発と製品開発の姿を見ることが出来た。負荷の大きい重量物を安全・効率的に、且
つ、耐久性を維持しつつ運搬せねばならないトラック、沢山の人を安全に快適に乗降させねばならない大型バス、これらの果たす物流、人流の役割の重要さを感じるとともに、今回に見学では、これらの歴史的な進化と技術開発の姿を観察することが出来たと思う。日野、いすゞともに、商品と会社のプロモーショ
ン、紹介、宣伝の機能を持ちながらも、自動車生産の歴史、技術開発の展開を詳しく解説するという社会的役割を強く意識しているようだ。現在の企業博物館の新しい姿を伝えているようにも思えた。
(了)
Reference:
- いすゞプラザHP:https://www.isuzu.co.jp/plaza/
- トラックメーカー(三菱ふそう、いすゞ、日野ほか) https://www.55truck.com/journal/7.html
- いすゞと⽇野、国産初のハイブリッド連節バスを共同開発・プレスリリーフhttps://www.isuzu.co.jp/press/2019/5_24.html
- 日本のトラック輸送―現状と課題― http://www.jta.or.jp/coho/yuso_genjyo/yuso.html
- いすゞ:沿革・創業 https://www.isuzu.co.jp/investor/fact/history_1.html
- いすゞと⽇野――⽇本⾃動⾞産業の淵源(1929年) https://gazoo.com/article/car_history/150731_1.html
- 「いすゞ自動車の歴史とディーゼルエンジン」(高原正雄)講演録12.16
- 日本のバス車両- Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/⽇本のバス車両
- 日本自動車史(佐々木烈) 三樹書房
- 日本のトラック・バス(小関和夫)三樹書房