―水を巡る⽣活スタイルの変化と衛生陶器の技術開発を知る
♣ TOTO博物館の概要
衛生陶器の主力メーカーである”TOTO”は100周年の記念事業として、2015年、同社
の歴史と製品の開発過程を伝える”TOTOミュージアム”を設立した。この博物館は、TOTOの歴史や製品を展示するだけでなく、社会環境や生活スタイルの変化を反映した「水まわり」全体の文化や歴史を豊富な展示と共に伝える貴重な施設となっている。斬新なスタイルの建物と魅力的な展示で、訪問者はすでに10万人を越えたという。私も、この
評価を知って、今年の夏、同博物館を訪ねてみた。博物館では、噂に違わず非常に優れた展示と親切な案内があって満足した見学であった。おかげで、日本の衛生陶器の進化や技術、その中で主導的な役割を果たしたTOTOの役割や歴史、技術開発の歴史を改めて知ることが出来た。このときの見学内容を記してみよう。
TOTOミュージアム所在地:北九州市小倉北区中島2-1-1
Museum web site of ” TOTO Museum” http://www.toto.co.jp/museum/
♣ TOTOミュージアムの魅力
今日、水栓をひねると清潔な水が飲め、浴室ではシャワーが使え、トイレでは排泄物を水できれいに流す衛生的で快適な生活が当たり前になっている。しかし、下水道が整備されていなかった古い時代の水回りは不便で不衛生なのが一般的であった。また、トイレは家の「裏手」に、洗面所は家の「隅」にあって、どちらかといえば表からは見にくい存在であった。現在は家
の中心の明るい場所に位置するようになっている。この生活文化の変化は、「水」を扱う機器の革命的進化と関連システムの進歩、取りわけ衛生陶器の開発や技術が大きな役割を占めている。このダイナミックな歴史的変化をわかりやすく解説しているのがこのTOTOミュージアムである。
TOTOミュージアムの展示ゾーンは、創業のルーツと歴史を記す第一展示、日本の水回りの文化と歴史をあらわす第二ゾーン、世界に向けたTOTO各種製品の展示ゾーン、ライブラリーなどとなっている。また、申し込みによってTOTOの水回り陶器がどのように作られるのかを体験できる「工場見学」も行えるようになっている。
トイレ機器の歴史や浴室・洗面所などの水回りの施設の機能が、現在どのようになっているのか、時代とこれが共にどのように変化してきたのかを知るのに最適の博物館施設いえるだろう。
♣ 創業とTOTO歴史ゾーン
TOTOの前身は「東洋陶器」で1917年に創立された衛生陶器、陶磁器の製作会社であああった。1912年「日本陶器合名会社」内の製陶研究所として発足しているのが起源となっている。創立者は貿易会社「森村組」で働いていた大
倉和親で、欧米留学中にみた便器や浴槽の素晴らしさに感動し、日本でも製造を始めようと衛生陶器の開発・研究を開始したものである。その後、「東洋陶器」として九州・小倉に工場を設けて洋式便器の製造を始
めた。当時、浴槽や便器はすべて木製であったが、明治期後、日本の都市化と生活スタイルの西欧化に伴って日本でも将来普及すると考え開発に取り組んだものであった。
しかし、当時、その開発は困難を極め、衛生陶器の普及もなかなか進まなかったが、
同社では、食器の販売を伸ばしつつ開発と製造を続けたとい
う。転機は大正年間で、下水道整備と都市化が進んだこともあって、徐々に衛生陶器の売り上げも伸びていった。戦後になると、住宅需要の拡大と生活スタイルの変化に伴って急速に需要が拡大する。特に、住宅団地の建設は「洋式便器」の採用を促し、本格的な衛生陶器の普及につながった。こういった中で、TOTOは、ユニットバス(1960s)、
温水洗浄便器ウオッシュレット(1970s)、節水洗浄便器(1980s)などヒット商品を生み出して世界的グローバル企業に成長してく。 このTOTOの会社としての歴史が、創業の理念と共に、製品群で丁寧に展示されている。この展示により、各時代の衛生陶器がどのような進化をとげたか、社会変化に対応してどのように開発が進められていったかがよくわかる。
♣ トイレ衛生陶器の進化とTOTO
(和式と洋式>
博物館では、TOTOの主力製品であるトイレ衛生陶器の展示に特に力を入れている。日本では、古来、「便所」は生活の重要部分ではあったが、どちらかといえば「裏方」「家の外」に位置すべきものとして意識されてきた。今日では、明るく衛生的で快適な空間を形作る「部屋」と意識するようになっている。この社会意識の変化がどのように進んできたのかを歴
史的に示していこうとしているのが、この展示ゾーンであった。ここでは、TOTO製品だけではなく、衛生陶器全体の進化をところが興味深い。
<昔のトイレ>
歴史展示コーナーの最初の壁面には大きな展示パネルがあって、昔からの「トイレ」の形や排泄物処理の社会システムが丁寧に説明されている。 この展示では、「厠」、「雪隠」などのいわれ、」の
昔の「排泄物」のリサイクル、「排貯蔵式」から「水洗」に移っていった経過、「和式」から「洋式」便器への変化を、TOTO製品だけでなく展示していて見学者の興味を引く。ここでの主要テーマは「衛
生」「快適」「環境」にあると言われるが、このテーマに沿った衛生陶器の歴史的な進化が感じられた。
<トイレバイクの環境キャンペーン>
中でも目を引いたのは、衛生陶器の普及・宣伝のため製作したという「トイレバイク・ネオ」であった。当
時、
TOTOでは”TOTO Green Challenge”というキャンペーンの下、Co2削減と環境・衛生を唱って、洋式衛生便器を乗せ排泄物バイオガスで動くバイクで全国キャラバンを行ったという。この実物がホールに展示されていて見学者は大喜びであった。(https://www.youtube.com/watch?v=YSHvz65LszQ)
<珍しい博物館の展示>
このほか珍しいトイレや歴史的な衛生陶器を展示している。
♣ 浴室や台所の進化も展示
TOTOは衛生陶器のほか「水まわり」を中心とした総合メーカーを目指しており、浴室や台所、洗面台、シャワー器具や水栓などの開発も
積極的に行ってきている。そして、このための展示も博物館では豊富である。 浴室がどのように変化し進化してきたか、台所や洗面所が家庭の中でどのように位置づけられてきたか、器具の節水技術がどのように進展していったかなどが展示品の中に示されている。これら展示品は、昭和40年代以前から各家庭の中で実際に使われていたものも多く含まれていて、これらがどのよう現在のスタイルになっていったのかがよく
わかる展示となっていた。
また、ホテルに導入されたシステム・バスが一般の家庭に普及するすがたや、システムキッチンの導入、トイレ、シャワー、洗面化粧台などの節水技術の進展など、家庭生活と社会生活に必須の水まわり環境の変化が展示によく表現されている。また、日本ばかりでなく、生活習慣や文化の異なる外国での浴室スタイルや衛生陶器も紹介されていて興味深い。
♣ 現場の開発技術と製作過程
TOTOの製品をみるだけでなく、その製作過程も映像などでみられるのもこの博物館の特色である。展示ホールの一角には、映像コーナーも準備されていて、衛生陶器や浴槽などの焼成、機能部品の取付、組み立て過程などがビデオで確認できる。最新の水洗トイレに使われている実際の構成電子部品や金具、その機能、性能なども見本展示されていて、見えない部分にこのように多くの機能部品が内蔵されているのかと驚かされた。また、節水や洗浄機能が技術的にどのように成り立っているかも展示を通じてよくわかった。このほか博物館見学とは別に、工場での見学体験コーナーも準備されていて、衛生陶器の製作過程を実際に体験できるのも特徴となっている。
♣ おわりに
この夏、以上のようにTOTOミュージアムを訪ねてみたが、環境保全を意識した斬新で広々とした建物空間のなかで、「水」関わる様々な機器の開発過程と歴史をつぶさに見学出来たことはありがたかった。その中でも、生活に関わる多様な陶器や器具が、社会環境と社会システムに連動しつつ、如何に進化し新しい製品と結びついていったか感じることが出来たことは成果であった。生活に密着した博物館だけに是非多くの人にも訪ねてほしい施設である。
(了)
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参考とした資料:
- TOTOミュージアム 案内パンフレット
- TOTOミュージアム Web site: http://www.toto.co.jp/museum/
- 「水と暮らしの物語」http://www.toto.co.jp/museum/history/
- 衛生陶器の基礎知識 http://kk-daiwa.co.jp/blog/log/eid17.html
- 「トイレ年表」財団法人 日本レストルーム工業界:http://www.sanitarynet.com/history/
- 日本の便所 wikipedia