―現代産業技術の成りたちを語る親しみのある博物館
Visit Chiba Museum of Science and Industry
♣ 産業技術館の概要
千葉県の市川市に最新の産業技術の紹介と千葉の主要産業の歴史を紹介する「県立現代
産業技術館」が設立されている。この科学館は、県内に展開している「京葉工業地帯」の主要
産業である石油化学、鉄鋼、電力、そして日本で取り組んでいる先端産業技術について幅広い科学的見地からわかりやすく紹介している。1992年に設立されたがすでに県の内外から300万人を越える訪問者を集めている人気の産業博物館である。私も、今回、この「博物館訪問」訪ねてみた。このときの印象を記してみた。(英文はhttp://igsforum.com ーRecent Visit Museum)
千葉県立現代産業科学館所在地 〒272-0015 千葉県市川市鬼高1−1−3
ホームページ http://www.chiba-muse.or.jp/SCIENCE/
♣ 博物館の概要と展示内容
<設立の趣旨は科学技術の紹介と千葉産業の成り立ち>
設立の趣旨として博物館は、「千葉県に関わる産業技術を基本としつつ、広く日本や世界の産業技術を展示内容として扱う」と述べている。展
示内容では、鉄鋼、石油化学、電力産業の成り立ちをグローバルな見地から科学的に解説に力を入れている。特色としては、効率ではあるが、県内に展開する主要企業の全面的な協力で設立されていて、企業で実際に使われていた産業施設や製品を数多く展示品として活用していること、産業に関わる科学的実験に直接参加できる点があげられるだろう。
館内の展示は、「現代産業の歴史」、「先端技術への招待」にわかれ、さらに「創造の広場」として訪問者が体験できるコーナーの三つのコーナーから構成されている。
♣ 現代産業技術の歴史コーナー
<千葉・京葉工業地帯の形成>
館内二階の広い展示フローアーの全体が「現代産業の歴史」コーナーになっている。入場してまず目に入るのは、千葉県「京葉工業地帯」形成と主要企業工場の成り立ちをパネルで
紹介した展示である。戦後、高度成長期に沿岸が埋め立てられ、徐々に重化学工業コンビナートが形成されていく様子が貴重な写真と共に映像で紹介されている。どのようにして川崎製鉄、新日鉄の高炉建設、三井化学や住友化学の石油化学コンプレックス、東京電力の大型火力発電所の建設などが写真で観察できる。これは、日本の各地で見られた重化学工業地帯の形成を見る上でも貴重な歴史資料であると感じた。
<電力・石油・製鉄技術の成り立ち>
次の展示は、電気、石油、鉄鋼に関する歴史的展示で、古い時代の電気や石油、そして鉄がどのようにして産業として発展していったかの技術的な解説展示であった。電気でいえば古い時代の電気現象の発見から、現代の発電施設への進化、石油は初歩的燃料と
しての使い方から様々な石油化学工業に発展していった原理的な解説、そし
て、千葉の石油コンビナートで現在使われているシステム、石油化学製品の組成や産業素材としての使われ方などである。鉄の分野では、古い時代の鉄の使われ方からシ現代の高度な製鉄所システムと鉄鋼製品まで幅広い。
<現代電力産業の技術展開>
中でも、電力部門では、実際に使われていた千葉火力発電所の第三号タービ
ン・ローター、現在の交流火力発電所の原型となったというデッドフォード発電所の模型、平賀源内の“エレキテル”実物大模型、現在の発電・送電システムの解説展示、風力発電の実働模型などの展示が際立っている。(図参照)
<製鉄と石油化学産業の技術展開>
石油産業では、バートンの熱分解装置模型、千葉の工業地帯で使われていた石油「蒸留塔」模型、石油コンビナートのプラント模型、鉄鋼では、川崎製鉄の高炉第一号の10分の1模型、ベセマー転炉の模型などが見られる。これら、多くの展示は、模型ではあるが解説と併せて見学すると、それぞれの産業技術がどのような組合せで出来ているか、どのような原理と応用で産業として進化していったかが非常によくわかる構成になっている。
<機械産業の技術展開>
また、館内の機械技術の目玉展示としては、世界初の電車と言われるジーメンスの実物大電車模型、T型フォードの実物、F-3000レーシングカーがあって訪問者を喜ばせている。なかでも、川崎製鉄の高炉第一号の模型の展示は圧巻であった。
♣ 先端産業技術の展示
このコーナーでは、エレクトロニクスや新素材,バイオテクノロジーなどの先端技術とこれらの先端技術を根底から支えている超高真空や超低温などの極限環境をつくりだす技術が紹介されている。また、それぞれの実験室なども準備されていて、訪問者はスタッフによる実演も体験できるようになっている。筆者が訪れたときには、超伝導現象の実験をやっていて興味を誘われた。
<産業技術に応用される新素材>
新素材では、日用品や医療、宇宙開発にも使われている金属、セラミックス、合成樹脂などが紹介され、如何にこの分野の研究開発が進んでいるかを体験できる。エレクトロニクスは
我々の最も身近な分野であるが、その基となっている集積回路、通信、社会システムに応用されている電子電気の仕組みや素材、応用技術がわかりやすく解説展示されている。その中には、小柴教授のノーベル物理学賞受賞の根拠となった「カミオカンデ」の光電子装置の現物が展示されており、訪問者を喜ばせている。
<広く応用されるバイオテクノロジー>
しかし、私が最も興味を引かれたのはバイオテクノロジーの分野であった。そこには
DNAの立体模型、細胞融合、遺伝子組み換え技術などが解説パネル付きで展示されていて、超微細世界の神秘を感じさせてくれた。地球環境と先端技術の展示も面白かった。当然実物ではなく模型や解説パネルのみであるが、この課題に取り組む技術の進化を感じさせてくれる展示が並んでいる。
<先端産業を支える「超」環境を作り出す装置>
これら先端技術の進展を促進している「基礎」科学や装置の展示は、他に類例の少ない充実した内容であると思われた。これを実践や実験で解説してくれているのはありがたい。例えば、普段見ることのない超低温により物質の態様が変化する形や超真空状態で発生する現象、超高圧により炭素がダイヤモンドに変化する様子などは面白かった。ここでの展示の特徴は、これら「超」現象を作り出す装置の展示が幅広く豊富なことだった。これら装置(中には最新のものでないものもあるが)が、そのように先端技術の進歩に役立っているのかを自覚させてくれる。
♣ 創造の広場の展示
「創造の広場」と名付けられたこのコーナーは、様々な科学現象を直に体験できるこの博物館ならでは工夫がなされている「体験・参加型展示広場」である。ここでは、竜巻などの風の力や水の
波現象、物理的衝撃の力、電磁力の現象などを遊具を使って体験できる仕組みになっている。訪問者、特に子供たちは大喜びでこれら現象を体験していた。
また、電気現象では、高電圧による「アーク放電」の大型実演ルームも装備されていて、雷現象や硝子面に生じる「沿面放電」現象などを体験できる。大きな音を立てて発生する光と音の雷現象は圧巻であった。
そのほか、この博物館では、児童用のサイエンス教室、講演会、映像ホールなどの設備が準備されていて、終日滞在していても飽きない。
♣ 訪問を終えて
千葉県は戦後の「高度成長期」まで農村が卓越した農業県であったが、戦後、東京湾沿いに石油科学・鉄鋼・電力を中心とした「京葉工業地域」が形成され急激に変貌をとげた。これら企業の全面的な協力によって、基盤産業であるこれら石油・鉄鋼・電力を中心にして紹介するこの科学館は、幅広い科学的知識を若い世代に伝えようとした地方自治体の珍しい「産業博物館」である。
展示内容は、産業の基礎となっている科学の成り立ちから、産業に応用されている技術の内容をグローバルな視点から歴史的に展開している点、訪問者の参加型の展示に大きな工夫がなされている点が特徴であるように思われた。 日本の産業技術がどのような科学的探求を基礎として構築されたか、現在、世界で挑戦されている科学技術の行方はどのような方向に進みつつあるのか、地球や宇宙への挑戦、生活現象として我々が日々体験し活用している機械や道具、医療現場での装置などの成り立ちを理解する上で貴重な機会を提供してくれている優れた博物館であると感じた。
日本の産業技術の現在の姿を見ていく上でも、体験的に現代産業技術の進展を見る上でも貴重な産業博物館であることを自覚して博物館を退出した。
(了)
Reference:
- 千葉県立現代産業科学館 常設展示解説書 1998
- 千葉県立現代産業科学館 案内パンフレット
- 千葉県立現代産業科学館 館内展示案内シート
- http://www.chiba-muse.or.jp/SCIENCE/
- https://ja.wikipedia.org/wiki/千葉県立現代産業科学館
- https://ja.wikipedia.org/wiki/京葉工業地域
- サイアンス大図鑑 (河出書房新社) Original book: “Science”, A Dorling Kindersley Book